恋するオトメは超無敵っ!

「はあ……。翔くんと会えない放課後。幸せが足りなーい」

 なんてことをぼやきながら、わたしはトボトボと歩く。
 クラスで掃除当番が当たったせいで、翔くんのクラスの出待ちができなかった。
 そのうえ、算数の宿題を忘れたというお叱りで、職員室経由。
 すっかり遅くなってしまった。
 もちろん、わたしと待ち合わせなんてしていない翔くんは、ひとりでさっさと帰宅。今日はサコ爺の連絡もない。
 やる気が出ないわたしは、足取りも重く道を歩く。
 そのとき。

「そこのあなた! ちょっと待ちなさい!」

 ふいに、鈴を転がしたような可愛らしい声が響いた。
 でも、普段から登下校は基本ぼっちなわたし。
 自分は関係ないだろうと、その声を聞き流して足を止めずにゆるゆる歩く。

「ちょっと! あなたのことよ! 聞こえていないの? 止まりなさい!」

 それでもわたしは止まらない。
 だって、関係ないものね。
 すると、焦ったような声が、背後から追いかけてきた。

「ちょっとちょっと! あたしをムシしないで!」

 そして、肩で息をしながらわたしの前に回りこんできたのは、翔くんの妹ちゃんである、四年生の阿万音ちゃんだった。

 ピンクのランドセルを背負った彼女は、パステルブルーのセーラータイプのシャツと、濃い青の膝丈フレアースカート。
 髪は、いつものサイドポニーテール。
 うん、さすが美形兄妹。
 とっても似合っていて、とってもキュート!

「ねえあなた、あたしの話を聞いているの?」

 ぼんやりと見惚れていたら、阿万音ちゃんは、咎めるような視線を向けてきた。

「え? さっきから呼ばれていたのは、わたしだったの?」

 阿万音ちゃんからの接触は、わたしにとっては予想外で、思わず首をかしげてしまった。
 改めて彼女へ視線を向ける。
 可愛くてモテモテの阿万音ちゃん。
 ときどき校内や通学路で見かける彼女は、いつも複数の友だちに囲まれている。
 今日はその取り巻きを連れていなくて、ひとりきりだ。

「わたしに、なにか用かな? あ、もしかしてわたし、翔くんに呼ばれているとか?」

 色めき立ったわたしを、阿万音ちゃんはギロリと睨みつけた。

「そんなわけ、ないでしょ! これ以上おにいちゃんに近づかないでって、わざわざ釘を刺しにきたの! 迷惑! 目ざわり!」

 阿万音ちゃんの言葉に、わたしは一気にしょんぼりした。
 そんなわたしのヘコみ具合に気をよくしたらしい阿万音ちゃんは、さらに追い打ちをかける。
 胸の前で両腕を組んで顎をあげた。

「あたしの大事なおにいちゃんに付きまとうのは、もうやめてよね! 接近禁止!」

 でも、わたしには翔くんのパートナーになる夢がある。
 仮とはいえ、サコ爺の許可も、もらえている。
 ちょっと言われたくらいで引きさがる気は、まったくないんだけれどね。
 なので、阿万音ちゃんの言葉に返事をせず、話題を変えた。

「それをわたしに言うために待っていたの? もう暗くなるから送っていくよ」

 わたしは一緒に帰ろうと、阿万音ちゃんの横に並ぶ。

「な? なによ! 子ども扱いしないで! ひとりで帰れるわよ!」
「まあまあ、そう言わずに。どうせ同じ方向じゃない。ね!」
「ちょっと! ひっつかないで! 親しげに頭にさわらないでよ!」

 プッと頬をふくらませる阿万音ちゃん。
 翔くんの妹だけあって、やっぱり可愛いんだよね、阿万音ちゃん。
 思わず手を伸ばして、つやつやとした髪をなでちゃう。

「まあまあ。これも何かの縁だから」

 なんて言いながら歩きだしたわたしたちの前に、気がつけば、ひとりの女性が立ちふさがっていた。