恋するオトメは超無敵っ!

 翔くんは、刀を抜いた。
 彼ののどが、ごくりと鳴った。

 でも翔くんは、花子さんに刀の切っ先を向けずに、重力のままに下におろす。

 そうだよね。
 向けられるわけがないよね。
 こんな、小さな女の子に。

 怪異と知っていても。
 こんなに小さくて、遊びたかっただけの力のない女の子に、刀を向けられるわけが、ない。

 いかにも凶悪な都市伝説なら――わたしを助けたときのような怪異なら、ためらいなく斬ることができるであろう翔くんだけれど。
 あきらかに、翔くんは迷っている。
 わたしだって、迷っている。
 口にする言葉が、なにも浮かばない。

 そんな翔くんの前に、花子さんは立った。
 最初にわたしに向かってしたように、じっと大きな黒い瞳で、翔くんを見つめる。
 翔くんに問いかけるように、首をかくんとかしげてみせた。

 どうするの?
 翔くん?
 翔くんも、わたしだって、無抵抗の花子さんに、手をだせないよ?

 そんなわたしと翔くんから離れたところで、サコ爺は、見守るように眺めている。


 そのとき、花子さんが、両手をゆっくりあげた。
 翔くんが、ビクッと肩を震わせる。

「お・に・い・ち・ゃ・ん」

 そして、あげた両手を、翔くんのほうにのばして。
 花子さんは、翔くんが持つ刀の刀身(とうしん)に、そっと両手ではさむようにそえた。

 刀身に触れたとたんに、花子さんの姿が、薄くなる。
 やがて、空気にとけるように、きらきらと光りながら消えた。

 花子さんの顔は、ほほ笑んでいるように、わたしには見えた。



 動揺しているのだろうか。
 刀をさげたまま、無表情の翔くんは、花子さんを探すように、視線をさまよわせる。

 わたしは、翔くんの横に立った。
 彼の、抜き身の刀を持つ手に、わたしの手を重ねるようにそえて、鞘へ、ゆっくりとおさめる。

 刀は、とても重かった。
 この重い刀を――翔くんは、お父さんから受け継いだんだね。