恋するオトメは超無敵っ!

「ぼくが行ってもでないのなら、仕方がない。ほら、おとり。さっさと行けよ」

 つっけんどんに、翔くんはわたしに言った。

「はいはい。ちゃんとおとり役をしてきますって」

 そう言いながら、わたしが、女子トイレのドアに手をかける。
 すると。

「――なにかあれば、すぐに悲鳴をあげろよ。助けにいくから」

 そうつぶやく翔くん。
 思わずわたしは振り返り、横を向いていた彼の整った顔を、じっと見つめてしまった。
 すると、翔くん。怒ったような声になる。

「ほら、ぼぉっとするな! はやく行けって!」
「あ。はい、はいはい」

 わたしは、急いでドアを開けて、中に飛びこんだ。

 ――びっくりした!
 いきなり天然で、ドキッとすること、言わないでよ。

 わたし、顔が赤くなってないかな。
 真っ赤になっているところを、翔くんに見られたりしたら、恥ずかしい!
 あ、でも翔くんは横を向いていたから、たぶん見られていないよね?

 わたしは、両頬を軽くたたく。
 気持ちを切りかえると、真面目な顔になって、ゆっくり中を見回した。

 古い校舎なので、塗りかえられていないトイレの壁も天井も、くすんだような色だ。
 ちかちかとしている、薄暗い長電灯。
 ふたつある手洗い場の前には、ふちが黒ずんだ鏡。
 その向かい側には個室がみっつ。
 さらに、その奥にある細いドアは、用具入れだろうか。

 さすがにわたしは、どきどきしてきた。
 怖いの、苦手だなあ……。

「おい、中はどんな様子なんだ」

 そのとき、外から、翔くんの声がした。
 わたしは、ドアのほうへ振り返って、外の翔くんに返事をする。

「待って。いまから順番に、個室を確認していくから。それに、大きな声をだすと、姿をみせないかもしれないし」

 そう言ってから、わたしは考えた。

 恐怖心を取りのぞく効果があるけれど、いまは、九字の呪文で精神統一しないほうがいいかもしれない。
 なぜなら、九字の呪文自体に(はら)いの効果があったとしたら、花子さんはあらわれない可能性がある。

 そう考えて、ひとりでうなずいたわたしは、そろりと、一番入り口に近い個室のドアに近づいた。
 そっと、ドアを開く。
 中には、だれもいない。

「――ふう」

 息をはいて、わたしはドアを閉める。
 それから、となりの個室の前に立つ。
 ドキドキしながら、ドアをゆっくり開く。
 ここにもいない。

 なんだ。
 もしかしたら、今日は空振りかも。

 外から、しびれを切らしたような、翔くんの声がした。

「おい」
「待ってってば」

 そう言い返しながら、わたしは最後の個室のドアを開けようとして。
 けれど、そのドアは、開かなかった。