恋するオトメは超無敵っ!

 空の色と町の色が、同じ夕焼け色になる時間。
 一日の中で、一番事故が多くなる時間であり――ヒトではないモノと出会う時間。
 そして、わたしはまさにそのとき、ヒトではないモノに出会ってしまった。

 ひとは、理解を超える正体不明なモノに恐怖を覚える。
 目にした瞬間に思わず悲鳴をあげたわたしは、その正体不明なモノに追いかけられるはめになった。

 体力が自慢で、逃げ足には自信がある。
 なのに、わたしはもうどうしようもない状況になっていた。
 逃げているあいだに、行き止まりに追いこまれてしまったのだ。

 頭の中は、大パニック!
 しりもちをついたまま壁にもたれて、泣きそうになりながら見あげる。

「うそ……? もう逃げられない!」

 目の前をおおうように、真っ黒で大きな、この世のモノとは思われないモノ。
 それが、グワッとふくれあがると、わたしを押しつぶすように広がりながら倒れてくる。

「ひゃあっ!」

 わたしは、頭をかかえて身をすくめた。
 もうだめ!
 近道なんか、するんじゃなかった。
 もっと明るいあいだに、帰ればよかった!
 さようなら、お父さん、お母さん、おばあちゃん!
 おじいちゃん、いままで、全然いうことをきかなくて、ごめんなさい!

 そう思った瞬間。

 風が、ヒトではないモノと、わたしのあいだを吹き抜けた。
 ハッと顔をあげる。

 わたしの前に、かばうように、だれかの背中。
 その右手には、刀?

 さらに、その向こう側で、黒くて大きなヒトではないモノが、ななめに切り裂かれていた。
 一瞬で黒い霧になったモノは、夕暮れの空気にとけるように消えていく。

 ポカンと見あげていたわたしのほうへ、その人影は、ゆっくり振り返った。
 急いでわたしは、ありがとうと言おうと、口を開きかける。

「あ、ありが……」
「――なんだ。おまえ、凛音かよ……」

 わたしを見おろした彼は、神代翔(かみしろしょう)くんだった。

 同じ小学校の同級生。
 顔が整った超イケメンで、無口で近寄りがたいクールな王子さま的存在。
 わたしも、いままでまともに話をした記憶がない男の子だ。

 その翔くんは、わたしだとわかったとたんに、はっきりとわかるくらいにイヤそうな顔をした。
 それから怒ったような声で、言い捨てる。

「助けてやったんだ。このことは、ぜったい、誰にも言うんじゃねぇぞ」
「な、なによ、その言い方……」

 腰を抜かしたまま、わたしは迫力なく、こぶしを振りあげる。
 そんなわたしを冷たい目で見たあと、翔くんは、プイっと顔をそむけて駆けだした。
 あっという間に、通りの向こうに走り去る。


 小学五年生最後の三月三十一日、逢魔(おうま)(どき)
 そのとき、さっそうと助けてくれた翔くんの姿が、わたしの脳裏に焼きついたままだ。
 振り返ったときの、薄闇のなかで魅惑的にきらめく翔くんの瞳。
 繰り返し思いだしては、自然と顔がゆるんでしまう。
 どうやらガラにもなく、わたしは、恋に落ちてしまったらしい。
 ぼんやり彼に(いだ)いていた憧れから、一気に本気の恋に変わった瞬間だ。
 これがひとめぼれというものなんだ。
 いやあ、照れるわ。

 そして、同時にわたしには、ひとつの夢ができた。
 夢。
 それは、絶対、翔くんのパートナーになりたいって夢だった。