恋するオトメは超無敵っ!

「バカ正直に、真正面から斬ろうとするからよ。ワニに、行動を読まれているじゃない」

 わたしは、木の陰から姿をみせた。

 大丈夫。
 上からドローンが、距離を計算しているもの。
 あと何センチ、何センチって、イヤフォンを通してカウントをとってくれている。

 わたしは、ワニが跳びかかれないギリギリのところまで歩いていって、立ちどまった。
 九字の呪文の効果は、まだ続いている。
 巨大なワニを目の前にしても、わたしはギリギリ平常心だ。
 腰に両手を当てて、わたしはため息をついた。

「翔くん。もっと作戦をたてなきゃダメよ」
「あぶないから、関係のないやつは、さがっていろ」

 ワニから視線をはずさずに、翔くんはささやくように言う。

「それに、なんで、おまえがここにいるんだ? ぼくんちの情報は、だだ漏れか?」
「ふふっ。それは企業秘密なのです」

 わたしはワニを見つめながら、唇の前に人差し指を立てて、笑う余裕があった。
 そんなわたしと翔くんを、ワニは、様子をうかがうように動きをとめる。
 わたしは、口を開いた。

「翔くん。お手伝いいたします。わたしがワニの動きをとめるから、あとはよろしくね」
「よけいな手出しはするな。危ないから、さっさと離れろ!」
「わかったわ。ここは、わたしが翔くんに、恩を売っておくところよね」
「バカだろ? おまえ!」
「ふふっ」

 わたしは、両手をパッと開くと、目の高さでワニに向ける。

「翔くん、知ってる? ワニって、噛む力はすごいけれど、口を開く力はたいしたこと、ないんだって」

 そう言いながら、わたしは、開いた両手の人差し指と人差し指、親指と親指をくっつけて、九字の呪文の「在」の形をつくる。
 そして、人差し指と親指でできた三角形から、ワニの姿をのぞいた。
 同時に、AIの合成音が、わたしの耳に届く。

『ターゲット・白いワニ、ロックオン』

 九字の呪文の効果を乗せて、指で作った穴に、わたしは言霊(ことだま)を吹きこんだ。

捕縛(ほばく)!」

 たちまち、わたしの言葉が具現化した。
 指で作った穴から、複数の半透明のチェーンに変わって飛びだす。
 その鎖は、一直線にワニに向かって、襲いかかった。

 マズいと察したワニが、池の中へ飛びこもうと身をひるがえした。
 その逃げる時間を与えず、大きな口に絡みつくように、チェーンはぐるぐるとワニの周りを跳ねる。
 そのまま、くもの巣にかかった獲物のように、ワニを固定した。
 三メートルのワニが、全力で暴れまわっても切れない、強靭なチェーンだ。

 やったぁ。
 成功!

 これが、玖珂家に代々伝わる言霊の術。
 わたしの切り札だ。
 たまに失敗もするから、じつはけっこうドキドキしていたんだけれど。
 見事に成功だ!

 わたしは、片手のひらを上に向け、余裕ある笑みを浮かべて、翔くんを見る。

「さあ、翔くん。いまのうちに、どうぞ」
「あーもう! わかったよ!」

 翔くんは、刀を乱暴につかむ。
 そして、構えなおして、白いワニを一刀両断!
 公園の空気の中にとけるように、キラキラと白いワニは姿を消した。