恋するオトメは超無敵っ!

 翔くんは、わたしに背を向けて、近くのマンホールに向かって歩いている。

「その白いワニ、ぼくが、ちゃんと祓ってやりますよ」

 そう言って、かがんだ翔くんは、サコ爺に指し示されたマンホールを持ちあげる。
 刀片手に、翔くんは下水道に入ろうとして。
 そして気がついたように、サコ爺のほうへ振り返った。

「ん? サコ爺、なんでそこでゆっくりしてるんだ? まさか、ぼくだけで行ってこいってことじゃないよな?」
「そのとおり。翔くんだけで討伐、よろしくお願いします」
「なんでだよ!」
「その刀を使いこなせるのが、翔くんだけですから。私はお邪魔になってしまいます」

 そう言いながら、サコ爺は、スーツのホコリを払う動作をしてみせた。

 サコ爺は教育係だから、討伐を手伝うわけでもないのよね。
 危険な状況にならない限り、見守る感じかな。
 だって、サコ爺は絶対、強いもの。

 納得のわたしは、うんうんと、ひとりでうなずく。

「ああ、そうかよ。下水道で服を汚したくないってわけかよ」

 翔くんは、ふぅっと、ため息をひとつ。
 そして、仕方がなさそうに、ひとりでマンホールの中へ入っていった。
 それを見届けたわたしも、急いでまわりを見回す。

 ヤバい。
 わたしも現場に行かなきゃ!
 おいていかれちゃう!

 すると、まるでわたしのために用意されているような、赤い三角コーンに囲まれたマンホールが近くにあった。

 もしかして、サコ爺かな?
 さっすが!
 わたしの行動はお見通しだわ。
 願わくは、小さいワニでありますように。
 わたし、あんまり爬虫類は、得意じゃないのよね……。

 そう祈ったわたしは、マンホールのふたに手をかけた。
 重たいふたを、体が通り抜けられるくらいまで、横にずらす。
 そのままわたしは、身をすべりこませようとして――気がついた。

 なんだかわからない「異様な気」だ。
 忍びの第六感が、ささやいている。

 その気は、マンホールの下からじゃない。
 たぶん、地上。
 公園の中からだ!

 とっさにわたしは、マンホールの中に向かって叫んだ。

「翔くん! ワニは下水道じゃない! いま、公園の中に出てきてる!」

 わたしはそう言ったあと、危なくないように、マンホールのふたを元どおりに戻した。
 それから、すぐそばの公園の柵を、軽々と飛び越える。

 きっと翔くんには、わたしの声が聞こえているはずだ。
 そして、マンホールから出てきた翔くんは、向こう側にある公園の入り口から、中へ入るだろう。

 そう考えたわたしは、気配をたどりながら、一直線に駆けていった。