仲間と私で未来を紡ぐ

時を少し遡る。
くいと呪尊は、真っ向から対立していた。
呪尊は魔法を放ち、くいはそれを捌きながら反撃をする。呪尊はそれを対処しながらさらに攻撃を繰り広げる。
無言だが、その現場には緊張感が走っていた。
くいは呪尊を殺すことも辞さない、呪尊はくいを殺してしまっても構わないという勢いで攻撃や魔法をし続ける。
互いが向ける殺意への思いはそれぞれだが、共通の認識はあった。
それは、手を抜いたら自身が死ぬということ。
言葉の通り光の速度で迫る光線。
高威力なうえ繊細で正確な斬撃。
互角だが、その背景には互いの実力の拮抗がある。
だからこそ一瞬の隙を逃さず、逃されないのだ。
…くいには迷いがある。
それは、呪尊を本当に殺してしまうかどうか。
戦闘時には湧いて出てきた感情を冷静に対処しなくてはならない。
先ほどまであった怒りの感情は、時の経った今では心に押し込めている。
そのため、本来あった呪尊に対する"おもい"が、少し出てしまった。
…そう、呪尊に対する想いが。
くいの放った斬撃が、ついに魔法に負けた。
斬撃を突破した光線は、くいの左肩に命中。
痛みに揺らいだくいの表情を見て、呪尊は楽しそうに笑う。

「攻撃が弱くなったわよ。左手が使えなくなったあなたは、私とどう対戦するのかしら?」
「何も変わらん。今私が動けなくなったら、後ろにいる仲間に迷惑がかかるだろう。」
「あら、強気ね。」

そこで初めて__いや、久しぶりに。くいは呪尊の整った、しかしまだ幼さの残っているその顔を、横に切れた細い目を、茶色に染まった瞳を見つめた。

「では、そろそろ終わりにしましょうかしら?」

細い目をさらに細め、呪尊は右手をくいに向ける。
すると、呪尊の背後に大きな魔法陣が一つ生成された。

「__辺りに散らばったヒカリよ。初(しょ)に、形を持たずうねりうねる青き輝きよ。今我の元に集え!」

呪尊がそう唱えると、突風が巻き起こり魔法陣が青色に光り輝いた。
呪尊のボブに切られている茶色の髪の毛が、荒々しい風に吹かれて踊るように狂う。
くいの黒いロングの髪も、辺りの景色も全て巻き込むように風は吹き荒れる。

「次(じ)に、地獄に有りし赤き輝きよ。天から地に美しさを与える黄の輝きよ!暴風に巻き込まれながら、今我の元に集え!!」

またも呪尊が魔法の詠唱をすると、風がさらに荒れ、魔法陣の色が薄紫。それから緑色に変化した。
その異常な光景を見たむーは、驚きのあまりバリアを展開していた手を止める。
すると、中にいた仲間たちもろとも風に煽られてしまった。

「お、おい!何やってんだよむー!!」
「仕方がないわ…。この光景を見て驚かない方がおかしいわよ…!」

風に吹き飛ばされそうなむーを自身の方向に寄せながら文句を言ういかりに、やみは言葉を返す。
少し離れた場所でこの惨状。当然、呪尊に近いくいが平然と反撃できるわけもなく。
くいは風に煽られる左手の激痛に耐えながら、呪尊の方向をただ見つめることしかできないでいた。
呪尊はそんな皆の様子を見て、勝ちを確信したかのようにニヤリと笑う。
__瞬間、呪尊の表情が歪んだ。と同時に風が少しだけ和らぐ。
唐突に風が和らいだため、皆は攻撃が来ると身構えたが、呪尊は手だけは皆に向け顔と意識は上を向いていた。
それに流されるように皆が上を向うとした瞬間。
ドカァン!!!!
その衝撃音と共に、目の前が砂埃で見えなくなった。
攻撃されたと思い体を硬直させたくい達は、衝撃音の正体を認識したと同時に同じ言葉を叫んだ。

「「ちゃんはち!!」」

言われた少女は、皆の方向を見て笑ってみせた。

「やっほーみんな!朝ぶりだね!」

あっさりとそう言う少女__ちゃんはちの姿を見て、皆は驚いた表情をさらに大きくさせた。
ちゃんはちは、いつもと変わらないピンク色のTシャツに少し色の薄い紺の短パン、ブーツを履いて右手には剣を気にぎり、半透明な羽織りを肩落としをしている。
そして、ピンク色の瞳はより一層輝いていた。

「おまっなんだよその姿!閉じ込められた空間でファッションショーでもやってたのかよ!?」
「あれ、みんな"これ"のこと知らないんだっけ?」

間の抜けた声でそう言い合うちゃんはちを、呪尊は信じられないという目で見つめた。
その気配に気づいたのか、ちゃんはちは呪尊の方を振り返る。
微笑んではいる。しかし、その微笑みは先ほどまで皆に向けていたものではなかった。

(なぜあの場所から脱出できて…!?いや、それよりも…。なんでちゃんはちが『覚醒』を使えているの!?)

『覚醒』。
それは、能力使用者の全てのステータスを格段に上げて、魔力量を二倍に増やす身体強化の技。
使用者によっては、容姿が変わるなどの状態変化もある。
ちゃんはちはこれにより、少しだけ容姿が変化しているのだ。
しかし、この技は五分ほどしか使用できない。それに、元の体に戻る際の負担はバカにならない。
言えば五分経てば使用者は行動不能になる。
…ただし、花幻郷最強。それも、グループリーダーの座に座っているものに、この常識が通用するかは話が別だ。
いまのちゃんはちに勝てる相手は数えられるほどしかいない。そして、その中に呪尊が入っていないことを理解した。
当の本人のちゃんはちは、また仲間の元へ振り返り、何かを喋っている。
背中はガラ空きだ。
__好機かもしれない。
後ろがガラ空きな相手ほど、油断しているものはいない。
呪尊は、手をちゃんはちに向ける。
そして。

「…【バーバレンパ】」

小さく。そう、自分にも聞こえないくらい小さく唱えた。
緑色の一閃が、ちゃんはちに迫る。
気づいたくいが目を見開き叫ぼうとした。
その瞬間だった。
なんの前触れもなく、光線が斬り刻まれて消えた。
目の前で繰り広げられているはずなのに、まるで大きなスクリーンで現実を超越した映像を見ているようだった。
それくらい、理解ができなかった。
呪尊はそこまで思考を巡らせたのち、ようやく理解する。
__剣を握っているちゃんはちの右手が、わずかに動いている。
本当に斬られたのか。私の技を。
魔法というものは、詠唱をしたらしただけ強くなっていく。
だから、先ほどちゃんはちに放った【バーバレンパ】は、呪尊の放てる最大火力の魔法だったのだ。
…そう、だったはずなのに。
あっけなく光線をズタズタに斬り裂かれ、それをした本人は"それが当たり前"というような余裕の振る舞いをしている。
呪尊の精神をもズタズタにするようなちゃんはち行動…いやちゃんはちが、化け物のように思えてくる。
いや、魔法を繰り出す前に化け物に勝てないのはわかっていた。けれど、まさか自身の予想を超えるほどの化け物だとは知らなかった。
怯えながらちゃんはちを見ると、ちゃんはちはそのピンクの瞳で呪尊のことを見据えていた。
呪尊は、内蔵が冷えて震え、温度というものが消えて無くなり目の前が真っ暗になるような、非現実的な感覚を覚える。
すると突然。ちゃんはちがこちらに向かって飛んできた。
恐怖に支配された呪尊の体がこれに対応できるはずなく。
首に硬い衝撃が響いたのち、呪尊は意識を失った。