仲間と私で未来を紡ぐ

くいを先頭にして、七人は八百屋へ歩みを進める。
道中にも姿がなかったことから、本格的にまだ貸屋木と話しているという可能性が確固たるものになってきた。
もしかしたら寄り道をしているかもしれないというやさの提案により、皆は散り散りになっていろいろな店に入っていく。
アクセサリーショップ、服屋、小物店…。
そして、例の八百屋にはくいが向かった。
八百屋に着き、店内を舐めるように眺める。
じゃがいも、にんじん、キャベツ、大根…。そのポップや隅まで一通り舐め回す。もちろん、レジ裏やら限定クッキーが販売されていたと思しき空箱までしっかりと。
…しかし、そこにちゃんはちの姿はなかった。

「あ、あの…?いらっしゃいませ!ちゃんはち様に続いてなんて…」
「ちゃんはちはどこに行った。」
「…え」

くいはバッサリと言い切り、貸屋木を鋭い目つきで見下す。
鋭い目つきにビクッとしながら、しどろもどろになる貸屋木に、くいはさらに追撃をする。

「言え。裏手にでも隠しているのか?」
「い、いえ!そんなことは…」
「では何処にいる。言え。今すぐにだ。」

貸屋木はその覇気にビクビクしながら答えた。

「も、申し訳ございません…。ちゃんはち様はかなり前に買い物を終えられて店を出ております。そ、そのあとは私も分かりません…」
「そうか。なるほどな。」

未だ貸屋木を疑っているような目で、くいはそう吐き捨てる。
すると、そこにひかりが入ってきた。

「く、くいちゃん!」
「なんだ。」
「と、と、とりあえず来て!!」
「?ちょ…おいまて!」

ひかりはくいの手を引っ張ると超高速で駆けて行く。
ひかりは、ちゃんはちが近道として使っていた路地裏に足を進める。

「さっき扇子売りのおじいさんが言ってたんだけどね!ここの路地裏に入るのを見たって!だから行ったら…ほら!これ!!」

ひかりの指差す方向にあったのは、パンパンになった袋が横たわり、幾つもの食材が地面に転がっている様子だった。
くいはすぐにそれを調べる。
じゃがいも、にんじん、卵…。今日作るはずだったカレーの食材と、その他明日のための食材達。
極めつけに、袋の中から一枚のメモ用紙が落ちてきた。
その筆跡は間違いなくやさであることを確認した瞬間、くいは胃が蠢くのを感じる。
…ちゃんはちが、ここで何者かに攫われた。
そう思考したのと同時に頭に浮かんだのが、黒いローブの不審者像。

「こ、これ…」
「間違いない。これはちゃんはちが買ったものだ。早く皆に報告を__」
「そのみんなとやらは、これかしら?」

突如として空から何者かの声が降ってくる。
くいは瞬時に体制を変えて刀を創る。ひかりも遅れて雷光剣を創った。
二人が上を向こうとしたそのとき、何かがバラバラと降ってくる。
…それは、散り散りになってちゃんはちを探していた仲間だった。

「ひぇ…!」
「おま…」
「『失雷《ルーズサンダー》』」

放たれたそれを、くいは断ち斬る。
ようやく向けた上空には、今さっき頭に浮かんだ黒いローブの不審者がいた。
不審者は、宙に浮いていた。黒いローブをバサバサと揺らし、なんの力かわからないが空中に床があるかのようにその場に在った。
声色は女性だ。かなり若め。
よく見ると、隙間から茶色い制服が見え、左手にはページが開いている分厚い何かの本を握っている。
禍々しいそれは、顔の隠れている不審者をさらに恐ろしい姿に見せていた。
不審者__女性は手を振る。
すると、先ほどまでそこにあった仲間の姿が消えた。

「なに、冗談よ。最近知った魔法を実践したかった。たったそれだけ。」

二人は口を開いて固まる。

「驚いたかしら。まぁ、タネも仕掛けもない魔法だからこそ、驚いてもらわないとこっちも使った気にならないわ。」

女性は淡々と話す。
くいは額に青筋を浮かべながら思い切り地を蹴り、女性に向かって斬り込む。
刃は目の前にいる女性に届くと思ったが。

「『防壁《バリア》』」

女性は右手を伸ばしてそう呟く。
すると、女性の目の前に六角形状の板が幾つも連なった防壁が出現した。
くいはそこに刃を振るう。
…斬れない。
くいは驚くのと同時に、刀と防壁のかち合う力を利用してひかりの元へ下がる。
女性は防壁に触れる動作をする。
すると、防壁はバラバラになりやがて消えてなくなった。
くいは思考する。
こいつが例の黒いローブの不審者で間違いない。瞬間移動したように移動するのはおそらく魔法を使っているからだろう。ただ、そうだとしたらここで戦闘を続けるのは危険だ。何をしてくるのか全く読めない。

(…おそらくこちらから何かを仕掛けたら、あいつはまた防壁を繰り出すだろう。)

くいは刀を水平に構える。

(その力を利用して、森の方へ弾き飛ばす。)

くいは飛び上がり、人里側の建物の屋根へと移る。
女性はそんなそんなくいを体で追う。

「【降雷《コウライ》】!!」

女性の意識がくいに向いた瞬間、ひかりは固有能力を発動する。
【降雷】。上空から敵に向かって雷が落ち、体に痺れを与え、思考を一時遮断させる力を持つ。
雲が一瞬暗くなり、光がビリッと光る。
その瞬間、一閃の雷が女性に命中した。

「なっ!?」

くいはその声を聞いた瞬間、刀の構え方を変える。
刀の縁付近をにぎり、頭で女性の腹部を殴る。

「がはぁっ!!」

くいの目論見通り、女性は森深くへ飛んでいく。

「ひかり、感謝する!」
「大丈夫だよー!これくらい任せてよ!」

ひかりは腕を組みえっへんと言う。
そこに、情報収集をしていた仲間が屋根の上に登ってきて合流する。

「おい!今どんな状況だ!」
「やはり黒いローブの不審者が現れた。今森の方へ飛ばしたが…」

くいは森の深くを睨む。
女性が飛んでいった方向を。

「森の中に飛ばしたのに、人が落下した際の木々の揺らぎや音がなかったことを理解して疑いをかける。流石の洞察力ね。少し驚いたわ。」

皆は後ろを振り向く。
そこには、先ほど森の深くへと飛ばしたはずの、黒いローブを身に纏った女性がいた。

「てめぇ!ちゃんはちをどこにやりやがった!」

いかりが噛みつくと、女性は皆を見下すように顔を上げる。
少し見えた口元は、面白そうに笑っていた。

「さぁ、どこに行ってしまったのでしょうね。」

くいはその瞬間、足を踏み込んだ。
しかし、それをやみが止める。

「感情に任せて動くと後が大変よ。」
「…分かっている。」
「分かっていないから言ってるのよ。…ねぇ、貴方。ちゃんはちの場所を知らない?」

やみは、話しかけるような口調でそう聞く。
女性は皆を見下すような目線に戻す。

「知っているわ。なにしろ、ちゃんはちを襲いどこかへやったのは私だからね。」

自白されたそれに、くいはさらに目を見開いて一歩踏み出す。

「…魔法使い…」

しずくはそう呟く。
同時に、頭に強い衝撃が走った。
何かの記憶が砂嵐のようにザザッと駆け巡る。
しずくはこの頭痛に覚えがあった。
…記憶を取り戻しかけている。
しかし、それを払拭するようにやさが大声をだした。

「ちょっと!君!場所はどこって聞いているのに少し逸らした言い方をするのは違います!!きちんと明確な__」
「別に言ってもいいわよ。まぁ、貴方達が絶望するだけだけれどもね。」

やさの説教を遮った女性は、肩を揺らして笑いながらそう言う。
耐えきれないいかりは、舌打ちと共に足を一歩踏み出す。

「いちいち回りくどい言い方してんじゃねぇぞ!いいから言え!地下深くでも天高くでも探してやる!!」
「…へぇ。言ったわね?じゃあ教えてあげるわ。」

女性は本を勢いよく閉じてそれを下に落とす。
落下音と同時に、本は消滅した。消え方的に、魔力で作られた本だったのだろう。
女性の手には、また本が握られていた。
一連の行動に真っ白になった皆の頭に、ガツンと喝を入れるような言葉が響く。


「__ちゃんはちは、私の作った空間に居るわ。私だけの、私のための空間。壁には協力な結界魔法を張っているから、あそこから出られるのは私のみ。そして、あそこの空間に入れるのもまた、私だけよ。」


ニタリと笑う口元を見て、皆は確信した。
この女性…いや、女は、最初からこちらに勝ち目がないことを見越して確信を持たせる言い方をしなかったのだろう。

「まぁ、力づくで出ることも可能かもしれないけれど…。貴方達を見ている限りその可能性は限りなくゼロに近いわね。」

本を口に当てて笑う女を、皆は信じられないと言う目で見つめる。

「来れるなら来なさい。私は、あの空間の近くで待っているわ。じゃあ、さようなら。」

その言葉と同時に、女は消えてしまった。
皆は絶望する。
…あの女だけの、あの女のための空間。
それだけ言うのならば、かなり自由が効くのだろう。
…もし、ここにいる皆が近づけても、空間ごと瞬間移動させられるかもしれない。

「詰みね。」
「いちいち言わなくていいんだよ!分かってんだよこっちは!!」
「うるさいわ。とりあえず、一度家に戻りましょう。ここで何かしても、事態が解決するとは思えないわ。」

むーは淡々とそう言う。

「お前うるさい!」

いかりはそう言いながらも家に向かって歩みを進める。
絶望の空気に包まれながら皆も歩き出し、一度帰ろうと家を目指した。