仲間と私で未来を紡ぐ

一階に降りると、すぐ左にある通路に移って丸い小さな家へ向かう。
その場所を、ちゃんはち達は食堂と呼んでいる。
広々とした空間には、大きなテーブル席やら二人掛けの席やらが大量に用意されている。
皆はその中でも、長テーブルが一つと六つの座席が用意されているところに行く。
五人は席に座り、やさは奥にあるキッチンへと入り、オムライスの上にある卵を用意する。

「いやてかさ?異変ないんだから昼に起きたっていいじゃん」
「異変って唐突に起きることがほとんどでしょう。それに、あんたはこのグループのリーダーでしょう?はぁ。花幻郷最強の名が廃れるわ。」

いまだにブーブー文句を言うちゃんはちに、やみは呆れる。
花幻郷最強。
それは、この六名の称号。
ちゃんはちを筆頭に、六名で花幻郷を守るグループを作っている。
いわば、花幻郷の代表だ。現にそのような形でこの称号は扱われている。
その中でも長に立つ者。
それは、ちゃんはち。
花幻郷最強グループリーダーであるちゃんはちがこんな調子だと、グループの質も下がる。
やみはそう考える。

「それはそうだ。こんなリーダーだとグループ全員が怠惰だと思われるぜ。ったく。」
「いやーすいませんねぇ」
「それを言うならすみませんだろうが!」

明らかにイライラするいかり。
そんないかりは、ちゃんはちの後ろに立つ人物を見て青ざめる。
他の皆も目を見開く。

「何の話をしているんだ?」
「いやなんか私がお昼に__」

ちゃんはちはそこまで言って、ようやく言葉の主の異常性に気付く。

「うわぁ!?は!?なんで花韮がここにいるのさ!!びっくりしたじゃんか!!」

席を立って驚くちゃんはちを、花韮と呼ばれた人物は見下ろす。
背の高さ的にはちゃんはちと大差ないが、その風格や目から伝わる圧にそう感じたのだろう。

「お前は鍛錬を怠りすぎだ。だから私の存在にも気づけないのだろう?」

厳しい言葉をかける彼女の名は花韮無類。
ボブヘアに、首広の白い半袖。目立つ首元には、光り輝くネックレスがかかっている。
腰元には花韮の花が刺繍された布を下げており、その布の下には剣が見える。
花韮の鋭い眼光は、ちゃんはちの顔を見て離さない。
その眼光に、やみやむーですら恐怖を抱く。
おそらく直視されたら失神してしまうだろう。
皆がちゃんはちの発言に怯える。
当の本人のちゃんはちは。
めんどくさそうに目を細めながら言葉を放つ。

「だって立て続けに異変発生してんだもん。酷くない?私だって修行したいもーん!」
そう言うちゃんはちの腹を、やみは容赦なく叩く。
「いでっ!?」
「無礼よ。」
「いやでも…」
「煙花散花最強の御方にそんな言い方は良しなさい。」
「良い。ちゃんはちは昔っからこうだからな。」

花韮は、やみの発言にそう返す。
煙花散花最強。すなわち、この世界を統べる者と言っても過言ではない称号。
花韮は、元花幻郷最強であり、今は煙花散花最強の称号を持つ剣士だ。
ちゃんはちとは腐れ縁ではない。れっきとした過去がある。
この世界へ来てしまったちゃんはちを助けた者であり、ちゃんはちへ花幻郷最強の座を譲り渡した張本人なのだ。
花韮はちゃんはちの師匠といえよう。

「ですが…」
「こいつには私から言っても聞かん。それに敬語もやめろ。位で決められたくない。」

ずんと重くなった空気。

「えっ…と。花韮さん!いらっしゃいませ。えと…オムライス要りますか?」

そんな中に、ほんわかとしたやさが入ってくる。すると、途端にオムライスの卵とバターの優しく美味しそうな匂いが部屋に充満した。
やさは、一人一人の前に昼食を置く。

「悪いな。それではもらおう。」
「それではこちらを!」

そう言い、自身の分まで机に置く。

「いや、良い。この匂いでお腹が空いたがそれほどだ。お前が食べてから作ってくれればそれで事足りる。」
「で、ですが…」
「それに、この量だとお前ならペラリと平らげるだろう。」

そう言うと、花韮は別の机から椅子を持ってきてちゃんはちの隣に座る。

「なんでまた私の隣なのさ」
「別にいいだろう。」
「…でっでは!お言葉に甘えて!!」

やさはそう言いながら席に座る。
すると、皆は手を合わせて

『いただきます』

と息を合わせて挨拶をする。

(息があっているな。連携技に特化している。…いや、そもそもこいつらの戦い方がわからん。大体は予想できるがそれが合っているのかすら怪しい。)

花韮は、皆の息のあった挨拶にそう思考する。

「…てかさ、花韮。くるなら玄関からって毎回言ってるよね?」
「今日は玄関から__」
「鍵閉まってっし!まーた不法侵入かよ!」
「いいだろう。この家は元々私のものだ。」
「あーでたよ。てかそれなら嘘吐くなし」
「いいのかお前。そんな口聞いて。」
「あん?なんだぁ?」
「また花幻山の麓百周させるぞ。」

その言葉を聞いて、ちゃんはちの顔が青くなる。

「いやぁ…はは…冗談じゃないっすか…はは。だから、のそー麓百周はやめていただいてほしいなー…なんてー…」
「なんだ?花幻山ってそんなでっけぇの?」
「ば、ばか!余計なこと言ったら花韮が調子乗るから!」

そんなことを言い合っている中、やさは着々とオムライスを準備し、出来上がったものを花韮の目の前に置く。

「お、お口に合うかは分かりませんが…」
「良い。お前の作るものは全て舌がとろける美味しさだ。」

花韮はそう言いながら、小さな声でいただきますと言う。

「そ、そんな!」
「そう自身を下に見るな。とても美味しいじゃないか。」
「あ、ありがとうございます…!」

そんな二人の会話に、ちゃんはちは安堵の息を吐く。
花幻山。花幻郷に存在し、煙花散花で一番大きな山である。煙花散花ができたときぐらいからこの世界に住んでいる花韮でさえ、この山の四割程度のことしか知らない。
今から約十年前にここの世界へきたちゃんはちは、花韮から修行の一環として花幻山の麓を十周しろと言われた。
まだ強さ的に未熟なちゃんはちは、麓を一周するだけでも苦行だった。
なんやかんやあって、花幻山での修行はなくなったが、おそらくそのトラウマから、花幻山というワードを聞いただけで冷や汗が出るのだろう。
だから、話の逸れた今に安堵感を覚えたのだ。
しかし、花韮はその息を聞き逃さなかった。

「いかり。もしかして花幻山を一周してみたいのか?」

花韮の表情は全くもって変わっていない。
が、隣のちゃんはちの顔はまたも青くなる。
そして、いかりに向かって全力で首を振る。
だが、それはいかりにとっては逆効果だった。
ちゃんはちの強さをいまいち知らないいかりからしたら、ポンコツなリーダーにお灸を据える良きタイミング。

「いいぜ。やってやるよ。」
「では、この昼食を食べ終わったら行くか。もちろん、皆も来てもらうぞ。」

__おそらく、花幻山のことを知っているものなら絶対に行きたくないと騒ぎ立てるだろう。
しかし、ここにいる感情たちは、数ヶ月前にこの世界に存在し始めたのだから、そんなことを全く知らない。
別に大したことないだろう。
皆がそう思う中、ちゃんはちだけ気絶しそうになっていた。