仲間と私で未来を紡ぐ

その後、花韮により修行の中止が告げられた。
流石にこのまま続行は無理だと言うこともあるが、それ以前にみんなが川に遮られて存亡の森に来られていないのが主な原因だ。
三人はみなの元へと足を進める。
道にキノコが見えなくなったぐらいのタイミングで、くいの口が開く。

「花韮。お前は先程私を殺せたはずだ。なぜ殺さなかった。」

言われた花韮は、少し考える。

「…私の気分だ。深い意味はない。」
「ほう。平気で嘘を吐くのか。」
「ちょっ!もう過ぎたことだし、花韮もそんなカリカリし合わないでよ!」
「私は怒っていない。ただ事実を言っただけだ。」
「ならもうちょっと口調和らげてよ!」
「無理な願いだな。」
「なんでよ!!」
「ところでくい。お前、魔力を制御しないのか?」

ギャーギャー言うちゃんはちを無視し、花韮はくいに問う。
くいはその場に立ち止まるぽけっとした顔をする。

「…まりょくの、せいぎょ?」
「は?お前知らないのか?」
「すまない。何を言っているのかさっぱりだ。」
「正気か…。」

その発言に、花韮は頭を抱えため息をつく。
それをよそに、ちゃんはちはくいに説明を始める。

「魔力の制御はね、体外に漏れ出している魔力を器に封じてあげることだよ!」
「けれど、お前たちは魔力の制御とやらをしていないように見えるが?」
「いや、私もちゃんはちも、既に魔力の制御を行っている。魔力とは強さの証。わざと魔力を封じて強さを誤魔化せば敵の油断を誘い出せるだろう?」
「やはり戦いしか知らないのだな。」
「黙れ。逆に、なぜ私達が強くなり敵を欺きまでしてこの地位に立っていると思っている?」

花韮は不機嫌そうに、くいをじろりと睨む。
睨まれたくいは、無表情で花韮を見つめる。
二人の視線に挟まれているちゃんはちは、手をワタワタと動かして花韮を落ち着かせようとする。
しばらく見つめ合ったあと、花韮は自身を落ち着かせようと深いため息を吐き、胸の前で腕を組み、詳しい説明をくいにする。

「この世界で戦うためには魔力が必須だ。体外に漏れ出す魔力を使用して戦闘するのが主な方法。そこらへんに住んでいる者たちの魔力はそもそも漏れ出していない。いくら戦闘系の固有能力があるからと言って、それを操れるかと言われたらそうではない。つまり、民間住民は戦闘ができないんだ。だから私達が強くなり人々を守るべき存在とならなければならない。」
「それならば、より魔力を制御する理由がわからんな。」
「魔力を制御と言っても、完璧には制御してない。体内に封じた魔力を取り出して使うこともできるが手間がかかる。だから、戦闘に使う最低限の魔力を放出しておくのが最適なんだ。先程も言ったが、こうすれば敵から私達の強さが誤認されるしな。」
「くいは魔力が多いからね!魔力を制御しないと敵から逃げられちゃうし、なによりこれから会うみんなに怖がられちゃうからね」

不機嫌な花韮の噛み付くような言葉からくいを守るように、ちゃんはちはそう言う。
くいは魔力の制御ということの意義を理解する。

「では、それはどうやってやるんだ?」
「簡単だ。体内にある器をイメージし、それに魔力を戻すように封じていく。お前の魔力量なら、十分の一でも体外に残せば十分だろう。」
「いや何が簡単だよ。普通に難しいんじゃん。私がこれ習得できるまで何ヶ月掛かったと思ってんの?」
「できたぞ。これでいいか?」

くいは、さらりと魔力の制御を行う。
二人は驚きそちらを見ると、確かに先ほどの魔力の十分の一程度を残して魔力が制御されていた。

「…………。」

花韮とちゃんはちは絶句する。
魔力の制御。花韮は簡単と言ったが、実際は全く簡単ではない。
まず自身の体内にある魔力の器をイメージするところからだ。
自分の体の中にある器はどんな形なのが大きさはどのくらいなのか、漏れ出している魔力はどの程度なのか、また自身の魔力は何色なのか。
それをイメージしなければ魔力を戻すようなイメージはできない。
最初のステップが非常に難しい。ちゃんはちは、このイメージができるまでだけで三ヶ月はかかった。
それに、このステップができても次のステップもまた難解だ。
次に魔力を器に戻すイメージをする。
先ほどイメージした像が完璧なら、このステップは容易くできる。しかし、像がしっかりしていないのならまたふりだしに戻ってしまう。
最後にそれを封じる。
戻した魔力に蓋をするイメージだ。それだけなら容易い。
しかし、難しいのはこの後だ。
許容量を超えた器はいずれ魔力を外に出そうと封じる力に反発する。
それを抑えながら日々の生活を送りその状態が辛くない、つまり魔力を制御した状態が正常な状態となるほどになると、そのとき初めて魔力の制御が完全になったと言える。
反発する力は、漏れ出した魔力を戻せば戻すほど大きくなっていく。
そのため、魔力の多いものほど最終ステップに苦戦する。
しかし、くいはこの全てのステップを短時間で完璧に、そして完全に成功してしまったのだ。
花韮は、くいを注意深く観察する。
体の状態、筋肉の膨張、魔力の波、表情、指先の揺れまで。
くいを舐め回すように見たのち、花韮は顎に手を置きながら言う。

「……完璧だ。完璧に魔力の制御が維持されている。おそらくそのまま生活してもなんの支障も出ないだろう。」

その言葉を聞き、ちゃんはちは声にならない声で叫びながらそこら辺を走り回る。
二人の反応を見たくいは、相変わらず真顔だ。

「本当に簡単ではないか。何に驚いている。」
「いや簡単じゃないんです!それ!才能なんですよあなたの!なんっで主の私が習得するのに数ヶ月かかって感情のくいが一瞬でできるんだよ!逆でしょ普通!!」
「落ち着けちゃんはち。あり得ることだろう。」

何事もなかったかのように言うくいに、ちゃんはちはギャーギャーと叫び散らかす。
そんなちゃんはちを花韮が顎に置いていた手で制し、指を立てる。

「先ほどここに来たとき、くいの魔力が心臓付近__魔力の器に纏わりついてきた。そのときに私とちゃんはち、二人の魔力の器と、魔力の制御を同時に感覚的にだが把握。おそらくそれを応用をしただけだろう。」
「けれどそれでもすごくない?確かに感覚的にわかってても応用は…」
「じゃあちゃんはち。設計図の完成した箱を作りそれに水を入れ蓋をしろと言うのと、自力で箱を作り水を入れ蓋をし水が漏れ出さないように工夫しろと言われたらどちらが簡単だと思う?」
「どう考えても前者でしょ」
「だろう?私が言いたいのはそう言うことなんだよ。」

ちゃんはちは納得していないように首を傾げる。
その様子を見て、花韮は目を瞑り手を組む。

「自力で自身の体にある器をイメージするより、私達という設計図から己の器をイメージする方が圧倒的に簡単だ。短時間で魔力の制御を完璧に行えるのは賞賛するが、それの土台を作ったのは私達だ。」
「うんなるほどね!もう分かんないからとりあえずみんなと合流しよっか!」

これ以上頭を使いたくないちゃんはちは、我ながらいいことを言ったと思ってる花韮に対して適当に返事を返す。
そして、ちゃんはちは一人でてちてちと歩き始めた。

「…ほぉ。ちゃんはちも随分と生意気な態度を取るようになったな。前から更に生意気になってしまって。私が少しお灸をすえんとな。」

花韮はそうブツブツと言いながらちゃんはちの後をゆっくり歩く。
すると、突然早足になってちゃんはちの背後に近づく。

「?どしたのはな__」

そう言いながら振り返るちゃんはちの顔面に、花韮の拳がクリーンヒットする。
とても無事ではないような音が鳴り、ちゃんはちは声を上げる隙もなく遥か彼方までぶっ飛んでしまった。

「…お前。少しやり過ぎではないか?」
「いやちょうどいい。角度的におそらく仲間の近くの地面に突き刺さるだろう。」
「飛距離の問題ではなくてだな…。」

花韮の発言に、くいは汗を垂らしながら薄く笑うのだった。