ちゃんはちは、花幻山の麓を駆ける。
(こうしてみると、あのときの私の未熟さがよくわかるな。一日かけてやっと到達した忌々しいあの川もすぐそこか。)
すでに、ちゃんはちの鼻には水の涼しい香りが香っていた。遠くからゴウゴウと滝の流れる音もする。
ちゃんはちは、走る速度を緩める。
すると。
目の前に見えたのは、数十年前と変わらない湖のように大きい川。
花幻山の上にある花幻湖から流れる二つの川は、花幻山南西地方の裏側にある。
二つの間に挟まれた土地も花幻郷のものであるが、夢幻郷の荒れ果てた木々や原生生物が住んでいる。
そのため、ここの土地のみは花幻郷と夢幻郷の共同で管理している。
(数十年の花韮は何考えてたんだろ。こんなところにあの私を投げ入れたら数十秒で死ぬでしょ。)
過去の師匠に引きつつ、ちゃんはちは足を速める。
滝付近、それも岩石が流れる麓を駆けなければならない。
川底も決して浅くない。それに、川の底には人を食べる原生生物も潜んでいる。
水面を走るにしてもおそらくそいつに気づかれてぱくっと丸呑みされるだろう。
では、どうするのか。
ちゃんはちは、岩石を見つめる。
使えるのはこいつと、岩肌だ。
川のふちギリギリで踏み切り、ちゃんはちは大きな岩石に飛び乗る。
その次に前方にある岩、そして少し下にある岩石。
次々と乗り継いで行くが、上から降り注ぐ岩々は、減速もせず飛んでくる。
中間地点あたりで、先ほどまでは大丈夫だった上から降ってくる岩が邪魔になる。
ちゃんはちはそれも想定内。
事前に定めていた、水が流れていない突起状の岩肌を掴み、次は上から降ってきていた岩石に飛び乗る。
その後は順々に飛んでいき、着地したのは草が生い茂る森の中だった。
先の見えないほど暗い森を、花幻山の麓から離れないように進む。
上に花幻湖があるからか、岩は降ってこない。
…さて。次の脅威は原生生物だ。
ちゃんはちは少し息を吐き、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「『位置把握《アクウカンリョウカン》』」
すると、ちゃんはちの視点は一人称と三人称の視点に分かれた。
目で見えるのは一人称。しかし、脳で感じるのは三人称からの視点となっている。
『位置把握』。それは、ちゃんはちの固有能力だ。
平和系の『位置把握』は、三人称視点から物事を探知することができる。
探知範囲はデフォルトで半径二キロメートル。魔力を注げば最大で半径五キロメートルまで拡大することが可能。
探知できるものは、主に地形、生物。魔力の多いものは鮮明に位置が探知でき、逆に魔力が少ないものは探知できない。
ここに潜んでいる原生生物は、基本的に体外に魔力を放出している。
原生生物は体外に放出されている魔力で強さを決めているのだ。
おそらく原生生物同士の牽制のし合いなのだろう。
魔力とは、年齢の増加と比例して微増するが、強さを極めれて極めると大幅に増えていくもの。簡単に言えばレベルアップしたら魔力が増える。
つまり、魔力が多ければ多いほど強い。
魔力は決められた器を越えれば漏れ出す。それが体外に放出された魔力。
溢れんばかりの魔力の持ち主は、強者という証拠と言っても差し支えない。
それは人間にも適応される。
それこそ郷代表の者が良い例と言えるだろう。
大いなる責任を背負っている郷代表の者は、必然的に強くなければならない。
どんな困難にも立ち向かえるように。
体も心も精神も魔力も全て、極められた頂点に立たなければならない。
つまり体外に放出されている魔力量が常人と比べて桁違いなのだ。
__しかし、本当にその認識は正しいのだろうか?
もし、それで敵を欺こうとする者がいるのなら。
それで油断した強者を欺き殺す者がいるのなら。
それが真の強者ではないのだろうか?
ちゃんはちは、膨大な魔力を探知する。形からして原生生物で間違いない。それに複数体存在している。
(いくら二キロ離れていると言えど警戒する必要があるな。)
おそらく向こうからしたらちゃんはちは圧倒的弱者なのだろう。
原生生物にも知能がある。
強いものには手を出さず、弱いものには手をだす。
それは非常に正しい。自分から見て強いものには大概勝てない。
だから、原生生物は自身から見て圧倒的弱者を狙う。
その点でいくと、ちゃんはちは格好の的だ。
程なくして、先ほど探知した原生生物がちゃんはちの前に立ちはだかった。
そのデカさは二メートルを悠に超えている。
巨木のように馬鹿でかい四つの足には強靭な爪が生え、それよりも鋭い歯がちゃんはちを的確に捉える。その口の隙間からは堪えきれていない唾液が垂れている。
例えるならライオンのようなその容姿。それが三…いや奥に二体待機しているので計五体。
(グレオキングか。夏に出るのは珍しいな。夏眠をうまくできなかった個体かな?)
ちゃんはちを囲う三体のグレオキング。
特に攻撃してこないちゃんはちを見て、ほくそ笑むようにギラギラと輝いている目を細め、叫び声をあげながら襲いかかってきた。
瞬きもできないほどの一瞬で、その叫び声は聞こえなくなる。
襲ってきた三体のグレオキングは、刻み込まれてチリとなり消滅してしまったのだ。
控えていた二体のグレオキングは目をぴくぴくさせながら後ずさる。
そんな二体を、ちゃんはちは無心で見つめる。
眼光の恐怖に耐えきれなくなったグレオキングは、情けない鳴き声をあげながら逃げてしまった。
「原生生物の質も落ちたな。私が強くなったのかなんなのか。まぁ対処できるやつが多くなったのは私からしても夢幻郷からしても僥倖か。」
ちゃんはちは、逃げるグレオキングの背を見ながらそう呟く。
なぜ、グレオキングはちゃんはちを圧倒的弱者と思い込んでしまったのか。
決まっている。ちゃんはちは体外に放出される魔力量を操り、敵を欺いたからだ。
まぁ交通事故のようなものだろう。いくら原生生物に知能があると言えど、一度認識した情報を改めるほどの知性は持ち合わせていない。
グレオキングは、ちゃんはちの理不尽な戦略に騙されたのだ。
辺りに原生生物の反応がないことを確認したのち、ちゃんはちはまた走り始めた。
(こうしてみると、あのときの私の未熟さがよくわかるな。一日かけてやっと到達した忌々しいあの川もすぐそこか。)
すでに、ちゃんはちの鼻には水の涼しい香りが香っていた。遠くからゴウゴウと滝の流れる音もする。
ちゃんはちは、走る速度を緩める。
すると。
目の前に見えたのは、数十年前と変わらない湖のように大きい川。
花幻山の上にある花幻湖から流れる二つの川は、花幻山南西地方の裏側にある。
二つの間に挟まれた土地も花幻郷のものであるが、夢幻郷の荒れ果てた木々や原生生物が住んでいる。
そのため、ここの土地のみは花幻郷と夢幻郷の共同で管理している。
(数十年の花韮は何考えてたんだろ。こんなところにあの私を投げ入れたら数十秒で死ぬでしょ。)
過去の師匠に引きつつ、ちゃんはちは足を速める。
滝付近、それも岩石が流れる麓を駆けなければならない。
川底も決して浅くない。それに、川の底には人を食べる原生生物も潜んでいる。
水面を走るにしてもおそらくそいつに気づかれてぱくっと丸呑みされるだろう。
では、どうするのか。
ちゃんはちは、岩石を見つめる。
使えるのはこいつと、岩肌だ。
川のふちギリギリで踏み切り、ちゃんはちは大きな岩石に飛び乗る。
その次に前方にある岩、そして少し下にある岩石。
次々と乗り継いで行くが、上から降り注ぐ岩々は、減速もせず飛んでくる。
中間地点あたりで、先ほどまでは大丈夫だった上から降ってくる岩が邪魔になる。
ちゃんはちはそれも想定内。
事前に定めていた、水が流れていない突起状の岩肌を掴み、次は上から降ってきていた岩石に飛び乗る。
その後は順々に飛んでいき、着地したのは草が生い茂る森の中だった。
先の見えないほど暗い森を、花幻山の麓から離れないように進む。
上に花幻湖があるからか、岩は降ってこない。
…さて。次の脅威は原生生物だ。
ちゃんはちは少し息を吐き、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「『位置把握《アクウカンリョウカン》』」
すると、ちゃんはちの視点は一人称と三人称の視点に分かれた。
目で見えるのは一人称。しかし、脳で感じるのは三人称からの視点となっている。
『位置把握』。それは、ちゃんはちの固有能力だ。
平和系の『位置把握』は、三人称視点から物事を探知することができる。
探知範囲はデフォルトで半径二キロメートル。魔力を注げば最大で半径五キロメートルまで拡大することが可能。
探知できるものは、主に地形、生物。魔力の多いものは鮮明に位置が探知でき、逆に魔力が少ないものは探知できない。
ここに潜んでいる原生生物は、基本的に体外に魔力を放出している。
原生生物は体外に放出されている魔力で強さを決めているのだ。
おそらく原生生物同士の牽制のし合いなのだろう。
魔力とは、年齢の増加と比例して微増するが、強さを極めれて極めると大幅に増えていくもの。簡単に言えばレベルアップしたら魔力が増える。
つまり、魔力が多ければ多いほど強い。
魔力は決められた器を越えれば漏れ出す。それが体外に放出された魔力。
溢れんばかりの魔力の持ち主は、強者という証拠と言っても差し支えない。
それは人間にも適応される。
それこそ郷代表の者が良い例と言えるだろう。
大いなる責任を背負っている郷代表の者は、必然的に強くなければならない。
どんな困難にも立ち向かえるように。
体も心も精神も魔力も全て、極められた頂点に立たなければならない。
つまり体外に放出されている魔力量が常人と比べて桁違いなのだ。
__しかし、本当にその認識は正しいのだろうか?
もし、それで敵を欺こうとする者がいるのなら。
それで油断した強者を欺き殺す者がいるのなら。
それが真の強者ではないのだろうか?
ちゃんはちは、膨大な魔力を探知する。形からして原生生物で間違いない。それに複数体存在している。
(いくら二キロ離れていると言えど警戒する必要があるな。)
おそらく向こうからしたらちゃんはちは圧倒的弱者なのだろう。
原生生物にも知能がある。
強いものには手を出さず、弱いものには手をだす。
それは非常に正しい。自分から見て強いものには大概勝てない。
だから、原生生物は自身から見て圧倒的弱者を狙う。
その点でいくと、ちゃんはちは格好の的だ。
程なくして、先ほど探知した原生生物がちゃんはちの前に立ちはだかった。
そのデカさは二メートルを悠に超えている。
巨木のように馬鹿でかい四つの足には強靭な爪が生え、それよりも鋭い歯がちゃんはちを的確に捉える。その口の隙間からは堪えきれていない唾液が垂れている。
例えるならライオンのようなその容姿。それが三…いや奥に二体待機しているので計五体。
(グレオキングか。夏に出るのは珍しいな。夏眠をうまくできなかった個体かな?)
ちゃんはちを囲う三体のグレオキング。
特に攻撃してこないちゃんはちを見て、ほくそ笑むようにギラギラと輝いている目を細め、叫び声をあげながら襲いかかってきた。
瞬きもできないほどの一瞬で、その叫び声は聞こえなくなる。
襲ってきた三体のグレオキングは、刻み込まれてチリとなり消滅してしまったのだ。
控えていた二体のグレオキングは目をぴくぴくさせながら後ずさる。
そんな二体を、ちゃんはちは無心で見つめる。
眼光の恐怖に耐えきれなくなったグレオキングは、情けない鳴き声をあげながら逃げてしまった。
「原生生物の質も落ちたな。私が強くなったのかなんなのか。まぁ対処できるやつが多くなったのは私からしても夢幻郷からしても僥倖か。」
ちゃんはちは、逃げるグレオキングの背を見ながらそう呟く。
なぜ、グレオキングはちゃんはちを圧倒的弱者と思い込んでしまったのか。
決まっている。ちゃんはちは体外に放出される魔力量を操り、敵を欺いたからだ。
まぁ交通事故のようなものだろう。いくら原生生物に知能があると言えど、一度認識した情報を改めるほどの知性は持ち合わせていない。
グレオキングは、ちゃんはちの理不尽な戦略に騙されたのだ。
辺りに原生生物の反応がないことを確認したのち、ちゃんはちはまた走り始めた。
