『塵を抱き、塵を払う』― 業とともに生きた半世紀 ―

危険な組織との縁を断ち切り、再びトラックの運転席に戻ったとき、彼は久しぶりに“地に足がつく感覚”を味わっていた。
ハンドルを握り、エンジンの振動を腕に感じる。
高速道路の風景は、かつて夢を追っていた頃と同じはずなのに、どこか違って見えた。

「もう一度、ここからやり直すんだ」

その決意は、彼の胸の奥で静かに燃えていた。
そんなある日、同じ会社のドライバー仲間が相談に来た。

「会社に売上を搾取されてるんだ。歩合の分が、どう考えても合わない」

彼は耳を疑った。
仲間たちの給料が、本来よりも大幅に削られている。
会社は説明を避け、曖昧な言葉でごまかすばかりだった。
胸の奥で、何かが再び目を覚ました。

――間違っている。
――誰かが声を上げなければ。

彼は動いた。
労働組合を立ち上げ、全国規模の労働組合に加盟し書記長となり、仲間たちのために会社と団体交渉を始めた。
最初は、会社側も彼を軽く見ていた。
だが、彼は一歩も引かなかった。
資料を集め、証拠を揃え、仲間たちと共に声を上げ続けた。

そして―― ついにその瞬間が訪れる。

会社の正門前での抗議行動。
彼は赤い腕章を巻き、 仲間たちの先頭に立ち、 拳を高く突き上げた。
その姿を、新聞記者がシャッターに収めた。

翌週の赤旗新聞。
紙面には、社前で拳を突き上げる彼の姿が大きく掲載されていた。
その写真は、かつて闇に堕ちかけた男が、再び“正義の側”に立った証だった。
団体交渉は続き、ついに会社は未払い賃金の支払いを認めた。

総額――八百万円。

仲間たちの涙、握手、感謝の言葉。
そのすべてが、彼の胸に深く刻まれた。
だが、彼の心には別の想いも芽生えていた。

「俺は、やっぱり経営者として勝負したい」

仲間たちのために戦うことは誇りだった。
だが、彼の中には、“自分の力で未来を切り開きたい” という強い願いが再び燃え始めていた。
未払い賃金を勝ち取った後、彼は静かに会社と組合を離れた。

そして―― 新しい出会いが、彼を次のステージへ導いていく。