『塵を抱き、塵を払う』― 業とともに生きた半世紀 ―

破産の手続きが終わった日、彼はまるで体の芯が抜け落ちたような感覚に襲われた。
駅のホームの先頭に立ち“誰か押してくれ”と思った。
音楽を失い、家庭を失い、そして今度は、築き上げた会社と財産までも失った。

「なぜだ、なぜなんだ、誰か教えてくれ」

問いかけても、答えは返ってこない。
ただ、現実だけが冷たく突きつけられる。

金がない。

信用もない。

未来はまるで見えない。

そんなとき、彼の周囲に近づいてきたのは―― 反社会勢力そのものではないが、その“周縁”に位置する組織だった。
最初は、ただの知り合いの紹介だった。

「困ってるなら、相談に乗るよ」

そんな甘い言葉に、彼はすがるように手を伸ばしてしまった。
だが、その組織は、金融の世界の“裏側”に深く繋がっていた。
気づけば彼は、金融ブローカーとして危険な橋を渡る日々に足を踏み入れていた。
電話一本で金が動き、裏で誰かが泣く。
彼はその流れの中に立ちながら、胸の奥でずっと感じていた。

――これは、俺の生きる道じゃない。

だが、抜け出す術が見えなかった。
一度足を踏み入れた世界は、簡単に背を向けられる場所ではない。

そんな彼を救ったのは、共に全国を駆け抜けた運転手時代の恩人だった。
彼は、彼の過去も、失敗も、弱さも、すべてを理解していた。
そして、静かに言った。

「お前は、こんなところで終わる奴じゃない」

その言葉は、かつて高校時代に言われた、「お前は腐ってなんかいない」 そう言った、恩師の言葉と重なった。
彼は決意した。

――ここから抜け出す。

危険な組織との縁を切るには、勇気と覚悟、支えが必要だった。
沢山の運転手仲間が支えてくれた。
そして彼は、再びトラックの運転席に戻った。
ハンドルを握った瞬間、胸の奥にあった黒い石が少しだけ軽くなった気がした。

「もう一度やり直そう」

その言葉は、過去の自分に向けた宣言でもあり、未来への誓いでもあった。
だが、彼の人生はここで終わらない。

むしろ、ここから再び大きく動き出す。