『塵を抱き、塵を払う』― 業とともに生きた半世紀 ―

夢を手放した彼は、まるで燃え尽きたロウソクのようだった。
音楽という大きな炎は消え、残ったのは、静かに揺れる小さな火だけ。
だが、その火はまだ完全には消えていなかった。

「次は、何を目指すべきだろう」

そんな問いを胸に抱えながら、彼は新しい世界へ足を踏み入れた。

それが――ネットワークビジネスだった。

最初は半信半疑だった。
だが、話を聞くうちに、彼の胸の奥に眠っていた“挑戦する心”が再び目を覚ました。
夢を追い続けた青年時代の熱が、再び体の中を駆け巡った。
そして、彼は驚くほどのスピードで階段を駆け上がっていく。

三ヶ月後―― 彼は 最高位タイトルを獲得した。

会場のライト、拍手、祝福の声。
かつてステージに立ったときの感覚が蘇る。

「俺はまだ、やれる」

そんな確信が胸に満ちた。
彼の周りには、多くの “ビジネス仲間” が集まった。
夢を語り合い、成功を信じ、共に未来を描いた。
彼は彼らを“仲間”だと思っていたし、彼らも彼を信じていた。

だが―― ある日、彼は気づいてしまう。
仲間たちの中に、借金を背負い始める者が出てきたのだ。
「何かが違う」

胸の奥に、かつて感じた黒い石のような重さが戻ってきた。
自分だけが成功しても意味がない。
仲間が苦しむなら、それは本当の成功ではない。

そんなとき、大きな出会いが訪れる。
ある経営者との偶然の縁。
その男は、彼の中に眠る“本当の力”を見抜いた。

「君は、もっと大きな世界で勝負できる」

その言葉へ導かれるように、彼は僅か半年でネットワークビジネスを離れ、地産地消海産物卸売と飲食業を営む会社の常務取締役に就任した。
そこからの彼は、まるで別人のようだった。
朝獲れ鮮魚の当日便配送ネットワークを構築しテレビにも出演、地域の食文化を支える存在として注目を浴びた。
成功の光は、確かに彼を照らしていた。

だが―― その光の裏には、またしても深い影が潜んでいた。

三十七歳。
社長と経理部長による 不正融資・横領事件が発覚する。
会社は崩れ、彼は退任を余儀なくされ、、、そして――破産。

「どうして、こうなるんだ」

成功を掴んだと思った瞬間、足元の大地が崩れ落ちる。
夢を追った音楽時代も、家庭も、そして今度は会社も。
彼はまたしても、すべてを失った。

だが、この転落は、彼の人生の“本当の闇”への入り口にすぎなかった。