【完結】 【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

ドラーク侯爵夫妻と兄がレオノーラの運び込まれた部屋に案内されると、寝台の周りは、医師や看護師が取り囲んで慌ただしく動いている緊迫した状況だった。
処置の邪魔になるからと言われて寝台には近づけず、家族はただその様子を見守ることしかできなかった。

その最中、ドラーク侯爵は、容疑者の男爵令嬢の尋問が始まったと言われ、尋問室の隣へ案内された。そこでミリアの口から語られた内容は、かねてから二人に聞かされていた話とは全く違っていたのだ。


ドラーク侯爵はユリアから、エリアス王子がミリアという娘を見初めて、側に置きたいと強く希望したため、ノバク男爵の養女にしたのだと聞いていた。
それから程なく、ミリアに引き合わされたドラーク侯爵はその美貌に驚いた。これならエリアス王子が見初めるのも無理はないと納得したのだ。
その時、ミリアから自分の存在を知ったキャロライン殿下から酷い嫌がらせを受けているのだと、悲しそうに肩を落としてはらはらと涙をこぼす儚げな様子に絆されてしまった。

さらに、エリアス王子から、婚約者候補のキャロライン殿下とは婚約を結ぶつもりはなく、彼女の悪行を暴き断罪して追放する予定だと、恋人のミリアを通じて秘密裏に相談されていると聞かされた。
そしてその事を聞いたレオノーラが秘密の協力者となり、かねてから慕っていたエリアス王子のためにキャロライン殿下の悪行からミリアを守り、信頼関係を築いているというのだ。

それを聞き、レオノーラを婚約者候補とし、ミリアを愛妾として支援して後ろ盾になる事を了承した。
これでドラーク侯爵家の地位は盤石になる。そう信じて疑っていなかった。



ミリアは自分の罪を軽くするためにユリアに罪を擦り付けようとしているのだ。こんな娘の言葉は信じるに値しないと一蹴したドラーク侯爵は、ユリアが騙されていたに違いないと結論付けた。ユリアがこの事を聞けば酷く心を痛めるに違いない。少しでもその痛みを和らげてやらなくてはならないと、急いで邸に戻って来たのだ。

そこで、ユリアとノバク男爵の会話を聞いてしまったのだ。
彼の中で、愛してやまない妹の虚像は砕け散ってしまった。

ノバク男爵を残して部屋から出たユリアを、ドラーク侯爵はふらふらとした足取りで追いかけた。その背を見つめていると、幼い頃から大切に慈しんで来た妹の面影が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。

自室に戻ったユリアの部屋をノックすると、いつもと変わらぬ笑顔で出迎えられた。

「あら、お兄様お帰りなさい。どうしたの? 顔色が悪いわ」

部屋に入り、茶菓の準備を終えた侍女たちを退出させて二人だけになった。

「ミリアというあの男爵令嬢が、キャロライン殿下に冤罪を掛ける事を知っていたのか?」

やっと絞り出した声に、ユリアはカップを持ち上げた手を止めて溜息を吐いた。

「本当に、あの二人ったら使えない。それよりお兄様、早くミリアを開放してちょうだい。あの子たちがちゃんと筋書き通りに動かないと、私が公爵夫人に戻れないわ」

カップを口に付けたユリアは続けた。

「レオノーラも、ちょっと噴水に落ちただけでしょう? 何を大騒ぎしてるのかしら」

ドラーク侯爵は、医師や看護師に囲まれて処置を受けながら、ぐったりと横たわって動かないレオノーラの姿を思い出した。

幼い頃、小さな手を伸ばして屈託なく笑っていた末娘を、私は可愛がっていなかったか?
その愛娘の笑顔をいつから見ていないのか、一体、いつの間にあんなに背が伸びたのか。

私はどこから間違っていたのだろう。

ふらりと立ち上がったドラーク侯爵は、テーブルの上の銀のポットを高くもちあげると、手加減なくユリアの頭の上に振り下ろした。

倒れたユリアを寝台に運び、侍女たちには、眠ってしまったから起こさない様に言いつけ、自室に戻るとソファーに身を沈めた。

何も考えられずに夜を明かし、邸の中が騒がしくなったことで我に返った。
執事長が部屋に駆け込み、レオノーラの危篤が知らされた。

ああ、もう終わりだ。

立ち上がったドラーク侯爵は、机の上のペーパーナイフを手に取り、自らの首に深々と突き立てた。