【完結】 【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

次の日の朝食後、ディックの剣の稽古のためにダニエルがやって来た。

「ヴィー、久しぶりに稽古を付けに来たぞ!」

そしてなぜかステラも一緒に馬車から降りて来たのだ。
それに笑顔で答え、ディックと共に着替えて鍛錬場に入ると、模擬剣が飛んできた。

「先ずはお手並み拝見だ!」

私は受け取った剣を構え、掛け声と同時に向かってきたステラを迎え撃つ。
家族と離れて一年弱、王宮の騒動以外で剣を握っていなかったためかなり体がなまっている。
そこは流石、ステラはその状態を確かめるように加減をしながら相手をしてくれる。



その様子をにこにこと眺めるディックに、ダニエルが目を瞠った。

「驚かないのだな。ヴィクトリア嬢が剣を扱うのを見たことがあるのか?」

そう聞くと、ディックはダニエルに顔を向けた。

「姉様は僕が小さい頃から、僕たちが隣国に渡るまでお父様と毎朝鍛錬をしていたんですよ! 僕も姉様みたいに剣を扱えるようになりますか?」

そう言ってキラキラした目でダニエルを振り仰いだ。

「ああ、大丈夫だ。私がしっかり指導する。ディックは必ず強くなれる」

そう言って頭を撫でると、元気よく「はい!」と返事をした。

「強くなって、僕が姉様を守るんだ」

「ああ、一緒にヴィクトリア嬢を守ろうな」



久し振りに剣を交えた後、ステラと共に父の執務室に呼ばれた。
ステラを読んだのは父だったらしい。

「忙しい中、急な要請に応じてくれてありがとうステラ殿。少し面倒なことになりそうなので、二人にはあらかじめ知っておいて欲しいんだ。ドラーク侯爵家の令嬢が新入生として学園に入学するのだが、そのレオノーラ嬢が正式にエリアス王子の婚約者に名乗りを挙げた」

ドラーク家は私の実母ユリアの生家であり、かつてウェーバー公爵家に絶縁状を突きつけて来た家だ。代替わりをして現当主はユリアの兄が当主を務めており、レオノーラは私の従妹にあたる。
エリアス王子の婚約はまだ発表されていない。通常であれば学園での交流を見込んで婚約者に名乗りを挙げる者がいてもおかしくはないのだが、隣国の王女であるキャロライン殿下が最有力候補として側にいる以上、それを差し置いて名乗りを挙げる者がいるとは思わなかった。

「知っての通り、我がウェーバー家とドラーク家は絶縁状態だ。以前ドラーク家から届いた絶縁状には、母上が正式な古代契約書を作成して、ウェーバー公爵家からの絶縁状として各所に通達を出している。その時ドラークの先代は、没落貴族が何を偉そうにと鼻で笑っていたらしいが、現状ではこちらから絶縁を解かなければ向こうは挨拶さえできない状況だ。しかし、レオノーラ嬢が学園に入学すれば、一生徒としてヴィクトリアに近づく可能性はあるからね」

腕を組んで話しを聞いていたステラは、私に顔を向けた。

「廃王の件で、王家がウェーバー公爵家を重用している状況もそうだが、ヴィーがエリアス王子とキャロライン殿下と親しいことは知れ渡っているからな。そこを狙って突破口を開こうとしているとは考えられるな」

確かに、レオノーラ嬢とは従姉という間柄であったため、彼女が小さい頃に交流があった。
家同士は絶縁状態だが、個人の繋がりを求めて来る可能性はある。

さらに、離婚後にユリアは裕福な年上の伯爵家へ後妻として縁付いたらしいが、夫亡き後、継子である現当主と折り合いが悪く、ドラーク家に戻っていると聞かされた。
そこでは何かと肩身の狭い思いをしているらしい。ウェーバー公爵家とは絶縁状態だが、ロシュフォール女伯となった私に、母娘の情に訴えて近づいて来ることも考えられる。

『いまさら母親面だなんて、恥を知らないのかしら』

【野暮令嬢】を言われていた頃、年に一度参加する夜会で、私の姿にあからさまな嫌悪の表情を向けながら周囲の夫人たちと悪口を言っていたことは決して忘れない。

「あれが娘だなんて考えただけでぞっとしますわ。まあ嫌だ! こっちを見ているわ。さあ、皆様、目の穢れですからあちらに参りましょう」

『このまま許すわけがないでしょう? あれが生母だなんて考えただけでぞっとする』

オスカーはステラに顔を向けた。

「ドラーク家の件は、ヴィクトリアがウェーバー公爵家の名を合わせて名乗ることで牽制は出来る。それよりも、キャロライン殿下の身の安全が第一だ。ドラーク侯爵家の令嬢であれば、エリアス王子とキャロライン殿下と同じクラスになるはずだ。他国の王女のキャロライン殿下よりもレオノーラ嬢の周囲に侍る取り巻きの方が多いだろう」

「そこは任せてくれ。女性騎士科の生徒は全員我が家の傘下だ。数人選りすぐって、友人兼護衛としてクラスに送り込んでおく。それよりも、ヴィクトリアに関しては、バルテス小公爵夫人と名乗ってドラーク家を蹴散らす手もあるぞ?」

「まだお友達だよ」

即答した父の笑顔に、さすがのステラも笑顔が引きつった。
その話はまたおいおい、と言い残してステラは帰宅した。



次の日、今日はヴィッセル邸のサロンの日だ。
朝食の席でハンナから手紙が届いた。
何と、ヘンリクに学園の教師の話が舞い込んだらしい。数学の教師が急病で、その代わりの要請なのだが、ヘンリクはそれをあっさり受けてしまったそうだ。その件で今日のサロンの後相談したいという内容だった。

驚いてその事をマードックに伝えると、ヴィッセル前公爵は数学者だったのだと聞かされた。

「その指導を受けていた現ヴィッセル侯爵閣下も、学園時代から数学に関してはかなりの定評があったのです。確か何本か論文も書かれておりますよ」

そんな特技があったとは驚きだ。
それよりも、ヘンリクにはハンナの協力を仰ぐためにあの本を渡して内容も伝えている。
その中で、若い教師がヒロインの逆ハーレム要員にされる記述があるのだ。
散々弄ばれた挙句に捨てられてボロボロになるという、物語通りの未来しか見えない。

なぜ、分かっていながら自ら飛び込むのだ、常春の君よ。

一難去ってまた一難。

何度目かしら、これ。