ダニエルと共にロシュフォール伯爵邸を出て庭に降りると、ディックが思い切り抱き着いて来た。
「姉様! お外でも綺麗な姉様が見られるのが嬉しいです! それに、バルテス公子様が僕の剣の先生になってくれると父から聞きました。よろしくお願いします!」
そう言って、ダニエルにぴょこんと頭を下げた。もう剣の稽古が出来る年になったのだ。
ディックの言葉に、ダニエルは優しく頭を撫でて言った。
「早速明日から稽古だ、楽しみにしているよ。それから、私の事はダニエルで良いよ」
「はい! ダニエル先生!」
元気よく返事をしたディックは、私の手を取って庭を案内してくれた。
庭の奥には大きなガラス張りの温室があり、その中に入ると色とりどりの花が咲き誇っている。そしてその一角に、黄色いゼラニウムと白いマーガレットの花壇があった。
「そうだ! お父様から、ダニエル先生に伝言があるんです。毎朝この花壇から花を摘んで姉様に渡すようにって言ってました」
私とダニエルは顔を見合わせて苦笑いを漏らした。
愛の花ことばは、まだしばらくお預けらしい。
ウェーバー公爵邸に戻ると、チーム「沼」の侍女たちに迎えられた。
彼女たちはみんな、ロシュフォール女伯付きとして移ってきてくれたのだ。
そればかりか、ヴィッセル家の執事長だったマードックまで付いてきてくれた。
突然の辞表に驚くヘンリクに「後進の育成はぬかりありません。世代交代ですな」と言ってあっさり移って来たらしい。今はロシュフォール伯爵邸で元気に采配を振るっている。
部屋に案内されて軽く汗を流し、これから晩餐会用に着替えと化粧直しをする。
私がこれから纏うのは、ロシュフォール伯爵家の伝統色プラチナゴールドの衣装となる。デザインはもちろん、NWR商会の専属デザイナーであるクロエの手によるものだ。
ごく内輪の晩餐会ではあるが、ウェーバー公爵家からの招待であればドレスコードは正装となる。それぞれが伝統色を纏って集まって来た。
エリアス王子は、王家にしか許されていないロイヤルパープルの一揃えで現れた。
パートナーのキャロライン殿下は、祖国の色であるライトブルーとオフホワイトのファーを組み合わせたドレス姿が初々しく、爽やかな印象を与えている。
プラチナブロンドの艶やかな髪とアイスブルーの瞳にぴったりだ。
バルテス公爵夫妻ヴィルヘルムとステラ、バルテス前公爵ギルバート、バルテス公子ダニエルは、ネイビーの衣装で統一されている。見事に鍛え上げられた体躯にシンプルでシックな装いがスタイリッシュに映える。
ヴィッセル侯爵夫妻ヘンリクとハンナは、ボルドーの揃いの衣装を身に纏っている。
こうして改めて引きで見てみると、ヘンリクはかなり整った顔立ちと、長身でスマートなスタイルのバランスが良い。いわゆる美男子なのだといまさら気づいた。
以前、ずいぶん薄っぺらに見えたのは、ギルバートと並んでいたからだと納得した。
並び立つハンナは、人形のような完璧な美貌に、小柄で華奢な妖精のような雰囲気だ。そろそろ目立ってきたお腹を覆う様に、ボルドーより少し薄い色のレースがふわふわと重ねられたスカートが彼女の可憐さを引き立てている。
そして出迎えるのはウェーバー公爵夫妻のオスカーとカロンだ。
二人は、ウェーバー公爵家のターコイズブルーの揃いの衣装を纏い、穏やかな笑顔で到着した招待客をもてなしている。
そして、私はロシュフォール女伯としてプラチナゴールドの衣装を初披露した。ウェーバー公爵令嬢でもあることを示すため、ウエストにターコイズブルーのサッシュベルトとリボンをあしらっている。
晩餐は和やかに進み、デザートが運ばれて来た時、オスカーが立ち上がった。
参加してくれた礼と共に、この場を借りて発表があると言って契約書の束を手に取った。
「これは、学園に併設されている王立図書館の入館許可証と、王都の大聖堂の禁書区域を含む図書室の入室許可証、そして、王宮図書館の王族限定エリアを含むすべての区域に入れる特別許可証だ。国内のあらゆる文献を手に取れるように契約を交わした」
そう言うと、順番に契約書が回された。
「加えて、本日付でロシュフォール女伯爵ヴィクトリアは、正式に王家認定の「古代文学博士」として登録された。それにより、王立学園の研究棟に研究室が与えられ、学園の専門分野の教授となる事が決まった」
『初耳なんですけど!?』
魂の声と共に隣に座るダニエルを見やると、小さく頷かれた。
「そして、助手としてバルテス公爵家ダニエルが任命された」
父のその言葉に、ダニエルがテーブルの下で小さくサムズアップした。
そして廻って来た契約書に目を通し、最後の呪文を見てため息が出た。
一緒に見ていたダニエルに顔を覗き込まれたので、最後の呪文をなぞりながら魂の言葉で呟いた。
『世の中には、知らないほうが幸せな事が沢山あるわ』
ダニエルは、一瞬オスカーに目を遣り、大きく頷いた。
【ここに締結された契約に於いて、古からの理をここに記する。誠実なものは至上の幸福が約束され、不実なものは地獄の業火に焼き尽くされる】
実にお父様らしい。
「姉様! お外でも綺麗な姉様が見られるのが嬉しいです! それに、バルテス公子様が僕の剣の先生になってくれると父から聞きました。よろしくお願いします!」
そう言って、ダニエルにぴょこんと頭を下げた。もう剣の稽古が出来る年になったのだ。
ディックの言葉に、ダニエルは優しく頭を撫でて言った。
「早速明日から稽古だ、楽しみにしているよ。それから、私の事はダニエルで良いよ」
「はい! ダニエル先生!」
元気よく返事をしたディックは、私の手を取って庭を案内してくれた。
庭の奥には大きなガラス張りの温室があり、その中に入ると色とりどりの花が咲き誇っている。そしてその一角に、黄色いゼラニウムと白いマーガレットの花壇があった。
「そうだ! お父様から、ダニエル先生に伝言があるんです。毎朝この花壇から花を摘んで姉様に渡すようにって言ってました」
私とダニエルは顔を見合わせて苦笑いを漏らした。
愛の花ことばは、まだしばらくお預けらしい。
ウェーバー公爵邸に戻ると、チーム「沼」の侍女たちに迎えられた。
彼女たちはみんな、ロシュフォール女伯付きとして移ってきてくれたのだ。
そればかりか、ヴィッセル家の執事長だったマードックまで付いてきてくれた。
突然の辞表に驚くヘンリクに「後進の育成はぬかりありません。世代交代ですな」と言ってあっさり移って来たらしい。今はロシュフォール伯爵邸で元気に采配を振るっている。
部屋に案内されて軽く汗を流し、これから晩餐会用に着替えと化粧直しをする。
私がこれから纏うのは、ロシュフォール伯爵家の伝統色プラチナゴールドの衣装となる。デザインはもちろん、NWR商会の専属デザイナーであるクロエの手によるものだ。
ごく内輪の晩餐会ではあるが、ウェーバー公爵家からの招待であればドレスコードは正装となる。それぞれが伝統色を纏って集まって来た。
エリアス王子は、王家にしか許されていないロイヤルパープルの一揃えで現れた。
パートナーのキャロライン殿下は、祖国の色であるライトブルーとオフホワイトのファーを組み合わせたドレス姿が初々しく、爽やかな印象を与えている。
プラチナブロンドの艶やかな髪とアイスブルーの瞳にぴったりだ。
バルテス公爵夫妻ヴィルヘルムとステラ、バルテス前公爵ギルバート、バルテス公子ダニエルは、ネイビーの衣装で統一されている。見事に鍛え上げられた体躯にシンプルでシックな装いがスタイリッシュに映える。
ヴィッセル侯爵夫妻ヘンリクとハンナは、ボルドーの揃いの衣装を身に纏っている。
こうして改めて引きで見てみると、ヘンリクはかなり整った顔立ちと、長身でスマートなスタイルのバランスが良い。いわゆる美男子なのだといまさら気づいた。
以前、ずいぶん薄っぺらに見えたのは、ギルバートと並んでいたからだと納得した。
並び立つハンナは、人形のような完璧な美貌に、小柄で華奢な妖精のような雰囲気だ。そろそろ目立ってきたお腹を覆う様に、ボルドーより少し薄い色のレースがふわふわと重ねられたスカートが彼女の可憐さを引き立てている。
そして出迎えるのはウェーバー公爵夫妻のオスカーとカロンだ。
二人は、ウェーバー公爵家のターコイズブルーの揃いの衣装を纏い、穏やかな笑顔で到着した招待客をもてなしている。
そして、私はロシュフォール女伯としてプラチナゴールドの衣装を初披露した。ウェーバー公爵令嬢でもあることを示すため、ウエストにターコイズブルーのサッシュベルトとリボンをあしらっている。
晩餐は和やかに進み、デザートが運ばれて来た時、オスカーが立ち上がった。
参加してくれた礼と共に、この場を借りて発表があると言って契約書の束を手に取った。
「これは、学園に併設されている王立図書館の入館許可証と、王都の大聖堂の禁書区域を含む図書室の入室許可証、そして、王宮図書館の王族限定エリアを含むすべての区域に入れる特別許可証だ。国内のあらゆる文献を手に取れるように契約を交わした」
そう言うと、順番に契約書が回された。
「加えて、本日付でロシュフォール女伯爵ヴィクトリアは、正式に王家認定の「古代文学博士」として登録された。それにより、王立学園の研究棟に研究室が与えられ、学園の専門分野の教授となる事が決まった」
『初耳なんですけど!?』
魂の声と共に隣に座るダニエルを見やると、小さく頷かれた。
「そして、助手としてバルテス公爵家ダニエルが任命された」
父のその言葉に、ダニエルがテーブルの下で小さくサムズアップした。
そして廻って来た契約書に目を通し、最後の呪文を見てため息が出た。
一緒に見ていたダニエルに顔を覗き込まれたので、最後の呪文をなぞりながら魂の言葉で呟いた。
『世の中には、知らないほうが幸せな事が沢山あるわ』
ダニエルは、一瞬オスカーに目を遣り、大きく頷いた。
【ここに締結された契約に於いて、古からの理をここに記する。誠実なものは至上の幸福が約束され、不実なものは地獄の業火に焼き尽くされる】
実にお父様らしい。



