昨日に引き続き、優秀な助手と化したダニエルの手助けのもと、サロンは今日も盛況のうちに終わった。
その後、テラスでお茶会をすることになったのだが、ヘンリクが私の新しい邸として目星をつけた家がいくつかあるのだと、地図と図面を取り出した。
父のオスカーがそれを見て、実際に見に行きたいと言い出したので、ヘンリクとオスカーに、なぜかエリアス王子も同行する事になり、ダニエルとギルバートがそれに従った。
急遽女子会に変わったお茶会は、チーム「沼」の侍女たちも加わって、古代文学の内容に加え、恋愛談議で盛り上がった。
そんな中、私はキャロライン殿下が時折見せる、思いつめたような眼差しが気になっていた。
以前、エリアス王子から相談を受けた、予言のような物語の展開について心を痛めているのかもしれない。
三か月後に二人は貴族学園に入学が決まっている。
恐らく、こうしてサロンに参加しているのは、考察や他の物語を通して、あの物語通りに進まない方法を探しているのだろう。
そう聞いてみると、キャロライン殿下は俯いて小さな声で呟くように話した。
「恋は落ちるものだという言葉、物語にはよくあるでしょう? それなら、私がどう動いても、エリアス様がその男爵令嬢に心を奪われるのは止められないことかもしれないわ……」
ハンナや侍女たちの心配そうな顔に、内容を話してもいいかと聞いてみた。
私は、こくりと頷いたキャロライン殿下の手を取り、物語の内容をみんなに話したのだ。
「その物語は、仲睦まじい婚約者の二人が学園へ入学した日から始まるの。
大筋では、他国の王女様がこの国の王子様を婚約を結んだことで王国に留学し、ともに貴族学園に入学するのだけれど、王子様が美しい男爵令嬢に心を奪われて、王女様を蔑ろにするという物語なの。男爵令嬢を取り巻くのは、王子様を筆頭に側近たちから教師まで、彼女をまるで王女の様に扱い傅き、彼らの婚約者と共に王女様までも、その男爵令嬢をいじめたなどというバカバカしい理由で、卒業パーティーという公の場で断罪し、修道院送りや、あろうことか国外追放まで命じてしまうというあらすじなのよ」
現状でその物語と合致するのは、他国の王女様とこの国の王子様が、共に学園に入学するということだけだ。公然の秘密となってはいるが、婚約に関しては軽々しく言えないのでそこは濁して補足をした。
「その物語の中の、他国の王女様とこの国の王子様のお名前がね、キャロライン殿下とエリアス王子なのよ。それに、入学が決まっている生徒の中に、物語と同じ名前の男爵令嬢がいることも分かっているわ。それで、物語の通りにならないように殿下はずっと努力をなさってきたの」
それを聞いて、みんながため息と共に深く頷く中、ハンナが思いがけない言葉を発した。
「エリアス王子が、その男爵令嬢と恋に落ちなければ良いのですよね? 私、それを阻止するお手伝いができると思いますわ」
全員の目が、ハンナに釘付けになった。
「その物語に登場する、多くの男性を虜にしようとする女性は、男性にちやほやされる事で自分の自尊心を満たし、それが自分の価値だと勘違いをしているのです。お恥ずかしい話ですが、先ほどのお話は、身に覚えがあり過ぎて……」
みんなが身を乗り出し、向けられた真剣なまなざしに身を小さくするハンナに、私とキャロライン殿下は声を揃えて聞いた。
「そのお話、是非詳しく聞かせてください!」
私たちのその言葉に、ハンナは頷いた。
「先ず、知っておいていただきたいのは、私は、確かに多くの男性の目を引くような行動はしましたが、誓ってヘンリク以外の男性と関係はありませんでしたし、誰かに冤罪を掛けた事はありません。でも、ヘンリクに出会わなければ、エスカレートの果てに物語の女性の様になってもおかしくはありませんでした」
そう前置きをして話を始めた。
「先ほど、恋は落ちるものと仰いましたが、その状況は意図的に作れるのです。例えば、男性が図書室で本を取ろうとしている時、タイミングを見計らって同じ本を取るふりをして手に触れるとか。昼休憩で中庭によくいる男性なら、待ち伏せをして、目に入る位置で隠れて泣いている様に見せるとか。他には、廊下を歩いているその男性の後ろで転んだふりをして蹲るとか。そうして男性がこちらに目を向けたら、驚いたように潤んだ瞳で見つめるのです。儚く脆い様子を演出し、庇護欲を掻き立てて印象に残せば、特別な出会いだと思わせることが出来るのです」
学園時代に多くの男性を侍らせていたと聞いてはいたが、こういうことだったのかと、私だけでなくみんなが目を丸くしてハンナを見つめている。
「自尊心を満たすためだけに行ったそれらの行為が、どんなに浅はかで愚かな事だったか、今は深く反省しています。だからこそ、お手伝いをさせてください。物語なら、王子様と男爵令嬢の出会いや逢瀬がどの様なものか事前に分かっていますよね? その状況を全て崩せばいいのです。計画的であればこそ、不意打ちには弱いのです」
そう言うと、ハンナはにこりとみんなに笑顔を向けた。
「こういうことは意中の男性にだけ向ければ良いと、それを今回の件で十分心に刻みました」
つまり、ハンナは意中の男性を振り向かせるばかりか、虜にする方法を知っているということなのだ。
そして、戻って来たヘンリクを出迎えた時、私たちはその威力を目の当たりにした。
玄関に入ったヘンリクは、潤んだ瞳で見つめるハンナに気がつくと、急いで近づいてきて、どうしたのかと優しく聞いた。すると、ハンナはすっとヘンリクに寄り添い、彼の腕にそっと手を置いて囁きかけた。
「皆さんに仲良くして頂いて、本当に嬉しかったの」
ハンナに見つめられたヘンリクは、蕩けそうな笑顔を向けている。
それを見て、思わずある言葉が私の脳裏に浮かんだ。
【恋のカリスマ】
その様子を見て、気づいてしまった。
キャロライン殿下の心配する通り、もしも物語が現実になったなら、物語のヒロインたる男爵令嬢はハンナに匹敵する威力を持っているということなのだ。しかも、冤罪を計画するなど質が悪い。
エリアス王子を交えて対策を考えた方が良いかもしれない。
先ずは、あの古代物語を熟読してもらって女心を学んでもらわなくては。
それにしても、ハンナの協力はとても心強い。
その後、テラスでお茶会をすることになったのだが、ヘンリクが私の新しい邸として目星をつけた家がいくつかあるのだと、地図と図面を取り出した。
父のオスカーがそれを見て、実際に見に行きたいと言い出したので、ヘンリクとオスカーに、なぜかエリアス王子も同行する事になり、ダニエルとギルバートがそれに従った。
急遽女子会に変わったお茶会は、チーム「沼」の侍女たちも加わって、古代文学の内容に加え、恋愛談議で盛り上がった。
そんな中、私はキャロライン殿下が時折見せる、思いつめたような眼差しが気になっていた。
以前、エリアス王子から相談を受けた、予言のような物語の展開について心を痛めているのかもしれない。
三か月後に二人は貴族学園に入学が決まっている。
恐らく、こうしてサロンに参加しているのは、考察や他の物語を通して、あの物語通りに進まない方法を探しているのだろう。
そう聞いてみると、キャロライン殿下は俯いて小さな声で呟くように話した。
「恋は落ちるものだという言葉、物語にはよくあるでしょう? それなら、私がどう動いても、エリアス様がその男爵令嬢に心を奪われるのは止められないことかもしれないわ……」
ハンナや侍女たちの心配そうな顔に、内容を話してもいいかと聞いてみた。
私は、こくりと頷いたキャロライン殿下の手を取り、物語の内容をみんなに話したのだ。
「その物語は、仲睦まじい婚約者の二人が学園へ入学した日から始まるの。
大筋では、他国の王女様がこの国の王子様を婚約を結んだことで王国に留学し、ともに貴族学園に入学するのだけれど、王子様が美しい男爵令嬢に心を奪われて、王女様を蔑ろにするという物語なの。男爵令嬢を取り巻くのは、王子様を筆頭に側近たちから教師まで、彼女をまるで王女の様に扱い傅き、彼らの婚約者と共に王女様までも、その男爵令嬢をいじめたなどというバカバカしい理由で、卒業パーティーという公の場で断罪し、修道院送りや、あろうことか国外追放まで命じてしまうというあらすじなのよ」
現状でその物語と合致するのは、他国の王女様とこの国の王子様が、共に学園に入学するということだけだ。公然の秘密となってはいるが、婚約に関しては軽々しく言えないのでそこは濁して補足をした。
「その物語の中の、他国の王女様とこの国の王子様のお名前がね、キャロライン殿下とエリアス王子なのよ。それに、入学が決まっている生徒の中に、物語と同じ名前の男爵令嬢がいることも分かっているわ。それで、物語の通りにならないように殿下はずっと努力をなさってきたの」
それを聞いて、みんながため息と共に深く頷く中、ハンナが思いがけない言葉を発した。
「エリアス王子が、その男爵令嬢と恋に落ちなければ良いのですよね? 私、それを阻止するお手伝いができると思いますわ」
全員の目が、ハンナに釘付けになった。
「その物語に登場する、多くの男性を虜にしようとする女性は、男性にちやほやされる事で自分の自尊心を満たし、それが自分の価値だと勘違いをしているのです。お恥ずかしい話ですが、先ほどのお話は、身に覚えがあり過ぎて……」
みんなが身を乗り出し、向けられた真剣なまなざしに身を小さくするハンナに、私とキャロライン殿下は声を揃えて聞いた。
「そのお話、是非詳しく聞かせてください!」
私たちのその言葉に、ハンナは頷いた。
「先ず、知っておいていただきたいのは、私は、確かに多くの男性の目を引くような行動はしましたが、誓ってヘンリク以外の男性と関係はありませんでしたし、誰かに冤罪を掛けた事はありません。でも、ヘンリクに出会わなければ、エスカレートの果てに物語の女性の様になってもおかしくはありませんでした」
そう前置きをして話を始めた。
「先ほど、恋は落ちるものと仰いましたが、その状況は意図的に作れるのです。例えば、男性が図書室で本を取ろうとしている時、タイミングを見計らって同じ本を取るふりをして手に触れるとか。昼休憩で中庭によくいる男性なら、待ち伏せをして、目に入る位置で隠れて泣いている様に見せるとか。他には、廊下を歩いているその男性の後ろで転んだふりをして蹲るとか。そうして男性がこちらに目を向けたら、驚いたように潤んだ瞳で見つめるのです。儚く脆い様子を演出し、庇護欲を掻き立てて印象に残せば、特別な出会いだと思わせることが出来るのです」
学園時代に多くの男性を侍らせていたと聞いてはいたが、こういうことだったのかと、私だけでなくみんなが目を丸くしてハンナを見つめている。
「自尊心を満たすためだけに行ったそれらの行為が、どんなに浅はかで愚かな事だったか、今は深く反省しています。だからこそ、お手伝いをさせてください。物語なら、王子様と男爵令嬢の出会いや逢瀬がどの様なものか事前に分かっていますよね? その状況を全て崩せばいいのです。計画的であればこそ、不意打ちには弱いのです」
そう言うと、ハンナはにこりとみんなに笑顔を向けた。
「こういうことは意中の男性にだけ向ければ良いと、それを今回の件で十分心に刻みました」
つまり、ハンナは意中の男性を振り向かせるばかりか、虜にする方法を知っているということなのだ。
そして、戻って来たヘンリクを出迎えた時、私たちはその威力を目の当たりにした。
玄関に入ったヘンリクは、潤んだ瞳で見つめるハンナに気がつくと、急いで近づいてきて、どうしたのかと優しく聞いた。すると、ハンナはすっとヘンリクに寄り添い、彼の腕にそっと手を置いて囁きかけた。
「皆さんに仲良くして頂いて、本当に嬉しかったの」
ハンナに見つめられたヘンリクは、蕩けそうな笑顔を向けている。
それを見て、思わずある言葉が私の脳裏に浮かんだ。
【恋のカリスマ】
その様子を見て、気づいてしまった。
キャロライン殿下の心配する通り、もしも物語が現実になったなら、物語のヒロインたる男爵令嬢はハンナに匹敵する威力を持っているということなのだ。しかも、冤罪を計画するなど質が悪い。
エリアス王子を交えて対策を考えた方が良いかもしれない。
先ずは、あの古代物語を熟読してもらって女心を学んでもらわなくては。
それにしても、ハンナの協力はとても心強い。



