「そんな不誠実な夫、夫人はもっと怒るべきだ!」
「ダメよ! ほら、その風船がしぼんでいくような力の抜けた溜息。ハイ、息を止めて!」
今、私の目の前には、エリアス王子とキャロライン殿下が座っている。
そして、お説教をされている。
王家のウェーバー公爵家への仕打ちと共に、元国王の王命により嫁いだ私が、結婚以来ヴィッセル侯爵に受けた仕打ちも広がってしまったらしい。
それを聞いたエリアス王子とキャロライン殿下が連れ立ってやって来たという状況なのだ。
以前エリアス王子に相談を受けたキャロライン殿下との仲は良好のようだ。しかし、婚約の話は一旦保留となっているらしい。仲のよさそうな二人を見ていると、キャロライン殿下が心配しているあの物語のような出来事が起こるとは思えないのが正直なところだ。
私は、キャロライン殿下に言われた通り、息を止めて彼女に目を遣った。腰に手を当ててぷりぷりとお冠の様子だ。まるで自分のことの様に怒ってくれている愛らしい姿に、思わず息をそっと吐いて笑ってしまった。
「怒るほどの気持ちがヴィッセル侯爵閣下に対してありませんからね。彼の行動をじっと見ていると、ある瞬間に、ふと彼の視点に切り変わる。すると、その行動の理由が腑に落ちるんです」
「いやいやいや、府に落とすな。誰がどう見ても相手の身勝手だ」
二人の後ろに立ち、合いの手を入れているのはダニエルだ。エリアス王子の側近として今日も付き従って共にヴィッセル邸にやって来ている。
「ヴィッセル侯爵閣下の顔を見ていると、春の陽だまりを思わせるようなセリフが次々と浮かんでしまうのです。それを考えていると、怒りが消えるというか、力が抜けてしまうのです。今のところ観察対象としては退屈しないし面白いという感想ですね」
そう言うと、ダニエルから深刻な顔で告げられた。
「ヴィクトリア女公はそう言うが、世間では、愛人を優先して白い結婚を突きつけられ、妻として認められていないにも関わらず、それでも健気に侯爵夫人として家を守り立てていると噂になっている」
あら、まあ、それは早急に噂の上書きをしなくては。
「それでは、ヴィッセル侯爵とハンナさんが戻る前に、私が二人の真実の愛に感動して身を引いたという美談に作り替えなければいけませんね」
そう言う私にみんなの視線が集まった。何かおかしなことを言ったかしら?
「だって、遠からず私はここを出ますもの。ヴィッセル侯爵がハンナさんを伴って戻り次第、離婚の手続きをする予定なのです」
「え!? 結婚無効ではなく?」
エリアス王子が驚いた様子で聞いて来た。
「ええ、離婚でなくては、ヴィッセル侯爵とハンナさんの結婚は認められないでしょう?」
そう言う私に、キャロライン殿下が叫び声を上げた。
「そんな! なぜヴィクトリア様がそこまでの犠牲を払わなければいけないの!?」
特に犠牲と思っていなかったのだが、侍女たちを振り返ると、みんな頷いている。
いつの間にか、私は【気の毒な侯爵夫人】になってしまっているようだ。
ヘンリクを送り出して二日目、途中の宿場町でハンナと再会できた事、そして無事に愛を確かめ合えたと手紙が届いたのだ。ただ、精神的にも、肉体的にも無理が重なっていたため、ハンナの体調が落ち着くまで宿場町の宿で滞在すると連絡を受けている。恐らく、戻るのは三か月ほど先になるだろう。
それまでの間に、二人の真実の愛の美談を作り上げなければ。
『真実の愛をテーマにした感動的な古代物語はなかったかしら......?』
そう呟いた魂の声に、ダニエルは額に手を当てて天井を見上げ、他の皆からは残念なものを見る目を向けられていた。
真剣に脳内検索に勤しんでいた私は、その事に気付いていなかった。
「ダメよ! ほら、その風船がしぼんでいくような力の抜けた溜息。ハイ、息を止めて!」
今、私の目の前には、エリアス王子とキャロライン殿下が座っている。
そして、お説教をされている。
王家のウェーバー公爵家への仕打ちと共に、元国王の王命により嫁いだ私が、結婚以来ヴィッセル侯爵に受けた仕打ちも広がってしまったらしい。
それを聞いたエリアス王子とキャロライン殿下が連れ立ってやって来たという状況なのだ。
以前エリアス王子に相談を受けたキャロライン殿下との仲は良好のようだ。しかし、婚約の話は一旦保留となっているらしい。仲のよさそうな二人を見ていると、キャロライン殿下が心配しているあの物語のような出来事が起こるとは思えないのが正直なところだ。
私は、キャロライン殿下に言われた通り、息を止めて彼女に目を遣った。腰に手を当ててぷりぷりとお冠の様子だ。まるで自分のことの様に怒ってくれている愛らしい姿に、思わず息をそっと吐いて笑ってしまった。
「怒るほどの気持ちがヴィッセル侯爵閣下に対してありませんからね。彼の行動をじっと見ていると、ある瞬間に、ふと彼の視点に切り変わる。すると、その行動の理由が腑に落ちるんです」
「いやいやいや、府に落とすな。誰がどう見ても相手の身勝手だ」
二人の後ろに立ち、合いの手を入れているのはダニエルだ。エリアス王子の側近として今日も付き従って共にヴィッセル邸にやって来ている。
「ヴィッセル侯爵閣下の顔を見ていると、春の陽だまりを思わせるようなセリフが次々と浮かんでしまうのです。それを考えていると、怒りが消えるというか、力が抜けてしまうのです。今のところ観察対象としては退屈しないし面白いという感想ですね」
そう言うと、ダニエルから深刻な顔で告げられた。
「ヴィクトリア女公はそう言うが、世間では、愛人を優先して白い結婚を突きつけられ、妻として認められていないにも関わらず、それでも健気に侯爵夫人として家を守り立てていると噂になっている」
あら、まあ、それは早急に噂の上書きをしなくては。
「それでは、ヴィッセル侯爵とハンナさんが戻る前に、私が二人の真実の愛に感動して身を引いたという美談に作り替えなければいけませんね」
そう言う私にみんなの視線が集まった。何かおかしなことを言ったかしら?
「だって、遠からず私はここを出ますもの。ヴィッセル侯爵がハンナさんを伴って戻り次第、離婚の手続きをする予定なのです」
「え!? 結婚無効ではなく?」
エリアス王子が驚いた様子で聞いて来た。
「ええ、離婚でなくては、ヴィッセル侯爵とハンナさんの結婚は認められないでしょう?」
そう言う私に、キャロライン殿下が叫び声を上げた。
「そんな! なぜヴィクトリア様がそこまでの犠牲を払わなければいけないの!?」
特に犠牲と思っていなかったのだが、侍女たちを振り返ると、みんな頷いている。
いつの間にか、私は【気の毒な侯爵夫人】になってしまっているようだ。
ヘンリクを送り出して二日目、途中の宿場町でハンナと再会できた事、そして無事に愛を確かめ合えたと手紙が届いたのだ。ただ、精神的にも、肉体的にも無理が重なっていたため、ハンナの体調が落ち着くまで宿場町の宿で滞在すると連絡を受けている。恐らく、戻るのは三か月ほど先になるだろう。
それまでの間に、二人の真実の愛の美談を作り上げなければ。
『真実の愛をテーマにした感動的な古代物語はなかったかしら......?』
そう呟いた魂の声に、ダニエルは額に手を当てて天井を見上げ、他の皆からは残念なものを見る目を向けられていた。
真剣に脳内検索に勤しんでいた私は、その事に気付いていなかった。



