乗り込んだの馬車の中には、父のオスカーが乗っていた。ギルバートとダニエル、私とハンナが乗り込むとすぐに状況の説明を始めた。
「アルブレヒト殿下は、事前に自身の王太子指名の契約書の確認をしなかったよ。その代わり、滞在中の王太子たちに個別で面会をして各国の古代契約について情報収集したんだ。各国多少方式は違っていても、作成者が代替わりすれば契約書の刻印や呪文が変わることは同じだと知って、ヴィクトリアが作成していない限り、それは偽造だと理解したらしい。それで、母上が亡くなって以降の契約書を確認して頭を抱えている。徹夜だったみたいだよ? いやぁ、調印式での体調不良も頷けるよ」
そう言ってみんなを見渡して続けた。
「登城すると、偽造かどうかを確認するために私が呼ばれたんだよ。面白いことにね、その契約書の多くが溺愛している側妃の実家の伯爵家がらみなんだよね。実際の契約金額に何かしら理由を付けて水増しされてるみたいだね。恐らくアイツの借金の穴埋めだろうね。中には情報漏洩に関する極秘契約なんてものがあってさ、アイツが詐欺とか脅迫とかした家に双方口止めする約束みたいな? いやー、思った以上にクズだね、あれは」
ギルバートとダニエルは腕を組んで真剣な顔で聞き入っている。
作成した契約書は、締結前に予算取りや承認のために稟議に回されるのだが、偽造したものを使って好き勝手にしていた言うことだ。国王とはいえ、これは明らかな詐欺であり横領だ。
『【祟り髪】は父親にそっくりってことね』
思わず漏れた魂の声に、ダニエルが頷いている。しまった、聞こえる人がいるんだった。
「そうなると、何としてもヴィーの口を塞ごうとするだろうな。ヴィッセル侯爵家に閉じ込めておくはずが、これだけ目立った行動を取って注目を集めてしまえば下手に手出しは出来んからな。夜会で難癖をつけて拘束し、そのまま監禁と言ったところだろう」
そう言ったギルバートに、ダニエルが顔を向けた。
「王宮騎士たちは私たちが抑えられても、近衛騎士は国王の命令優位で動きます。そこに手出しをするとなると……」
その言葉に、オスカーが、ふふっ、と小さく声を漏らした。
「ダニエル公子は真面目だねえ。廃王に盾突いたところで咎めはないよ。アルブレヒト殿下は覚悟を決めているみたいだよ。隣国の王太子に証拠を握られている以上、国王を庇えばこの国はなくなるんだ。今、彼なりに動いている」
そう言って私に笑顔を向けた。
「さあ、国王はどんな難癖を吹っ掛けて来るかな。ヴィクトリアのお手並み拝見だね」
父の言葉に、にこりと笑顔を返すと、その様子を見ていたダニエルが真剣な顔を向けて来た。
「思惑が外れた国王がどの様な手を使ってくるかは分からない以上、警戒を怠ってはいけない。捨て身の人間ほど恐ろしいものはないんだ。ヴィクトリア女公、絶対に私から離れないでください。必ず私がお守りします」
ダニエルのあまりにも真剣な表情に、私は笑顔を作れず、思わずこくりと頷いた。
だって、こんなことを言われたのは初めてのことだったから。
一方、ヴィッセル侯爵家の馬車の中では、ヘンリクとハンナが向かい合って座っていた。
少し前から、ハンナの様子が変わってしまったのだ。
屈託なく明るかった彼女から笑顔が消え、ヘンリクがそばに居ても顔を上げる事もしない。
数日前からはヘンリクの訪れにも体調が悪いと部屋から出てこなかった。
最初は拗ねていると思っていたヘンリクだったが、さすがにいつもの我が儘ではないと思い至り、それ以来別邸で過ごしていたのだ。
今日の夜会も、出席できるか不安だったが、それには大丈夫だと答えて準備始めた。
支度が終ったと声を掛けられ、部屋に迎えに行くと、薄桃色のドレスに身を包んだハンナが笑顔で出迎えた。ドレスの色にホッとしたヘンリクは、労わるようにハンナを伴って別邸を出発したのだ。
一度侯爵邸に立ち寄って挨拶をすると言うと、何も言わず笑顔だけを返してきた。ヘンリクが馬車に戻って王宮に向かう間も、いつものおしゃべりもせず、ずっと笑顔でヘンリクを見つめていた。
「夜会で俺の言う通りにすれば、君は晴れてヴィッセル侯爵夫人だ。そうすれば君からはすっかり手を引いてあげるよ。よろしくね」
ハンナの脳裏には、あの紳士の言葉が何度も何度も繰り返されている。
それと同時に、その側で扇子で口元を隠した「親友」の顔がこびりついて離れなかった。
「アルブレヒト殿下は、事前に自身の王太子指名の契約書の確認をしなかったよ。その代わり、滞在中の王太子たちに個別で面会をして各国の古代契約について情報収集したんだ。各国多少方式は違っていても、作成者が代替わりすれば契約書の刻印や呪文が変わることは同じだと知って、ヴィクトリアが作成していない限り、それは偽造だと理解したらしい。それで、母上が亡くなって以降の契約書を確認して頭を抱えている。徹夜だったみたいだよ? いやぁ、調印式での体調不良も頷けるよ」
そう言ってみんなを見渡して続けた。
「登城すると、偽造かどうかを確認するために私が呼ばれたんだよ。面白いことにね、その契約書の多くが溺愛している側妃の実家の伯爵家がらみなんだよね。実際の契約金額に何かしら理由を付けて水増しされてるみたいだね。恐らくアイツの借金の穴埋めだろうね。中には情報漏洩に関する極秘契約なんてものがあってさ、アイツが詐欺とか脅迫とかした家に双方口止めする約束みたいな? いやー、思った以上にクズだね、あれは」
ギルバートとダニエルは腕を組んで真剣な顔で聞き入っている。
作成した契約書は、締結前に予算取りや承認のために稟議に回されるのだが、偽造したものを使って好き勝手にしていた言うことだ。国王とはいえ、これは明らかな詐欺であり横領だ。
『【祟り髪】は父親にそっくりってことね』
思わず漏れた魂の声に、ダニエルが頷いている。しまった、聞こえる人がいるんだった。
「そうなると、何としてもヴィーの口を塞ごうとするだろうな。ヴィッセル侯爵家に閉じ込めておくはずが、これだけ目立った行動を取って注目を集めてしまえば下手に手出しは出来んからな。夜会で難癖をつけて拘束し、そのまま監禁と言ったところだろう」
そう言ったギルバートに、ダニエルが顔を向けた。
「王宮騎士たちは私たちが抑えられても、近衛騎士は国王の命令優位で動きます。そこに手出しをするとなると……」
その言葉に、オスカーが、ふふっ、と小さく声を漏らした。
「ダニエル公子は真面目だねえ。廃王に盾突いたところで咎めはないよ。アルブレヒト殿下は覚悟を決めているみたいだよ。隣国の王太子に証拠を握られている以上、国王を庇えばこの国はなくなるんだ。今、彼なりに動いている」
そう言って私に笑顔を向けた。
「さあ、国王はどんな難癖を吹っ掛けて来るかな。ヴィクトリアのお手並み拝見だね」
父の言葉に、にこりと笑顔を返すと、その様子を見ていたダニエルが真剣な顔を向けて来た。
「思惑が外れた国王がどの様な手を使ってくるかは分からない以上、警戒を怠ってはいけない。捨て身の人間ほど恐ろしいものはないんだ。ヴィクトリア女公、絶対に私から離れないでください。必ず私がお守りします」
ダニエルのあまりにも真剣な表情に、私は笑顔を作れず、思わずこくりと頷いた。
だって、こんなことを言われたのは初めてのことだったから。
一方、ヴィッセル侯爵家の馬車の中では、ヘンリクとハンナが向かい合って座っていた。
少し前から、ハンナの様子が変わってしまったのだ。
屈託なく明るかった彼女から笑顔が消え、ヘンリクがそばに居ても顔を上げる事もしない。
数日前からはヘンリクの訪れにも体調が悪いと部屋から出てこなかった。
最初は拗ねていると思っていたヘンリクだったが、さすがにいつもの我が儘ではないと思い至り、それ以来別邸で過ごしていたのだ。
今日の夜会も、出席できるか不安だったが、それには大丈夫だと答えて準備始めた。
支度が終ったと声を掛けられ、部屋に迎えに行くと、薄桃色のドレスに身を包んだハンナが笑顔で出迎えた。ドレスの色にホッとしたヘンリクは、労わるようにハンナを伴って別邸を出発したのだ。
一度侯爵邸に立ち寄って挨拶をすると言うと、何も言わず笑顔だけを返してきた。ヘンリクが馬車に戻って王宮に向かう間も、いつものおしゃべりもせず、ずっと笑顔でヘンリクを見つめていた。
「夜会で俺の言う通りにすれば、君は晴れてヴィッセル侯爵夫人だ。そうすれば君からはすっかり手を引いてあげるよ。よろしくね」
ハンナの脳裏には、あの紳士の言葉が何度も何度も繰り返されている。
それと同時に、その側で扇子で口元を隠した「親友」の顔がこびりついて離れなかった。



