【完結】 【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

「明日の夜会で、私のこの能力は大いに役立つと思いませんか?」

ダニエルのその言葉に、一番に反応したのは父のオスカーだった。

「ヴィクトリア、心の中で何かで言ってみて」

その言葉に、私は魂の声を発動させた。

『クソ国王』

魂の声に声に反応したダニエルが、困惑気味の顔でその言葉を口にした。

「……クソ国王……。もう少し控えめにはならないか?」

私は即答した。

「心の中で我慢する必要性を感じません」

「……それは、そうだな……」

苦笑いのギルバートを他所に、興味津々と言った父がさらに問いかけて来た。

「さっき【祟り髪】って言ってたのはアイツ(アレックス)の事だろう? その他に付けた綽名はあるかい?」

私は、魂の声で続けた。

『ヘンリクは【常春の君】、ハンナの「親友」たちは、【マゾ令嬢】くらいかしらね?』


「……ヘンリク殿は【常春の君】、ハンナ嬢の「親友」の令嬢たちは、【マゾ令嬢】……」

ダニエルは、言い難そうに私の魂の声を口にしながら、不審者を見るような目を私に向けた。

「状況を観察して練り上げた会心の命名です」

「もう少し聞く人間の気持ちも考えた方が……」

愚問だわ。

「誰にも聞かせてはいませんよ。人の頭の中を勝手にのぞき見している人にとやかく言われたくはありません」

「……すまない……」

なんだか微笑ましいものを見る温かい目を向けているギルバートと、ずっと笑っている父オスカー、ちょっとシュンとしているダニエルに釘を刺しておく。

「念のために言っておきますが、私は口に出しては言っていません。口に出したのは、バルテス公子ですからね。それから、お父様、笑いすぎです!」

目じりに浮いた涙を拭きながら、父は楽しそうに宣う。

「人生は一度きりなんだから、目の前のことを思い切り楽しまなきゃ。こんなに面白いこと、笑わずに我慢するなんてもったいないよ?」

私は父の姿にあきれながらも、彼が昔よく言っていた言葉を思い出した。

「苦しい時こそ、何か楽しい事を見つけてちょっと笑ってごらん。そうすれば、不思議なことになんだか気持ちが少し上向いて、もう少しだけ頑張れるかもって思えるから」

オスカーのこの性格に、家族はみんな助けられていたのだ。



とにかく、ダニエルに私の魂の声が聞こえると分かった所で、有効活用するには実験が必要だ。
先ずは、どの程度離れれば聞こえないのかしらね、実験してみましょう。そう思った私は席を立って入り口に向かって歩き出した。
私が立ち上がるのを見て、慌てて席を立ったダニエルに魂の声で号令をかける。

『待て!』

ぴたりと動きを止めたダニエルを確認して、更に扉に近づき、背を向けたまま魂の号令をかける。

『お座り!』

ダニエルが座った事を確認すると、部屋を出た廊下に立ち、ダニエルの死角から魂の号令をかける。

『伏せ!』

部屋の中でダニエルが動く気配はなく、私の視界に入っている父からも何の反応もない。
思っただけのことは伝わらず、魂の声にだけ反応するようだ。

そして、姿が見えていなければ聞こえないということかしら? でも近くにいたら視界に入っていなくても聞こえるかも?

部屋に戻った私は、サイドテーブルの花瓶の中から赤と白のバラを抜きとって、ダニエルの手に一本ずつ握らせた。

不審な顔を向けるダニエルから少し離れて彼の真横に移動する。すると彼が顔をこちらに向けたので、まっすぐ前を向いてもらい、魂の声で号令をかけた。

『赤上げて』

赤いバラが上がる。
反対側の真横に移動してもう一度魂の声で号令をかけた。

『白上げて』

白いバラが上がった。
私は彼の背後に移動して魂の号令を発した。

『白下げないで、赤上げない』

赤いバラは下がらない。

「成る程、分かりましたわ。バルテス公子の視界に入っている時だけ、私の魂の声が聞こえる様です。それを踏まえて作戦を練りましょう。私の事はヴィクトリアとお呼びください」

それに応えて、バルテス公子は胸に手を当てて答えた。

「では、私の事はダニエルと」

相変わらず父は楽しそうに笑い、ギルバートは相変わらず微笑ましく私とダニエルを交互に見ている。

聞こえるのは魂の声だけだ。思っている事は伝わらないことに私は少しだけほっとした。