バレンタインはキスをして

「ん? どした?」

「やっぱり、なんでもない」

「なんだよそれ」

颯みたいな素敵な人が旦那様で幸せだなんて、いまここで口に出すのはやっぱり恥ずかしい。

「ほら、美弥のすきなやつ来たぞ」

「わぁ、可愛い」

「毎回おんなじ反応するよな」

目の前のペンギンたちは仲良さそうに並んで歩き、順番に水の中へと入って気持ちよさそうに泳いでいる。

「あの時はまさか颯と結婚してるなんて思っても見なかったな」

「俺は絶対結婚するって思ってたけどな」

「え? そうだったの?」

「美弥とだったら、きっとありふれたあったかい家庭が築けるんだろうなって確信したから」

颯の言葉にじんと心があたたかくなる。

(今なら……言えるかも)

私は結んでいた唇を開くと颯を見つめた。


「私……颯と出会えて颯と結婚して幸せだよ」


颯が切長の目を細めると、自分の頬を指差した。

「じゃあキスして」

「な……っ、だめだよ。こんな公衆の面前で」

「残念。誕生日だしいい感じだったからしてくれるかなって期待したのに。まぁ、俺からするからいいんだけど」

「えっ……?!」

こつんと額を寄せられてドキンとする。
颯の顔がゆっくり近づいてきて、思わず目を瞑ってからそっと開ければ、颯がククッと笑った。

「何期待してんの? 公衆の面前だろ」

「……もうっ」

「怒った顔もやっぱ可愛い」

颯が意地悪く笑うのを見ながら、なんだか無性に幸せが溢れてきて、私は繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。