シルバーリングの微熱

私はリングをもってテーブルに座ると、暫く見つめた。くすんで灰色になったリングはいつかの夜、蹲って泣いていた私にどこか似ている。

「磨けば……また綺麗に光るかな」

交際一年の記念日に智広がラーメン屋のバイト代で買ってくれたのがこのシルバーリングだ。

内側の刻印にはシンプルにK&Tと彫られていてそのイニシャルが表しているのは勿論、小雪と智広。

いつも隣に居られるように、と私の右手の薬指に指輪を嵌めながら恥ずかしそうにそう言った智広の顔が鮮明に脳裏に浮かんだ。

「……すごく好きだった……のにね」

でも手放した想いと引き換えに、いまだからこそわかることもある。

初めはキラキラしていた真っ白な恋心は大人になる過程でもがき苦しむうちに、暗くくすんでしまった。

好きだけじゃ大人にはなれない。

じゃあどうすれば大人になれるのか、どこからが大人なのか、いくら考えてもその境界線だけはいまだにわからない。

ただわかるのは空を飛べる立派な翼はあっても上手く飛べないのなら、それはまだちゃんとした大人とは言えないということだけ。

大人になれないのなら、無理になろうとしなくても良かったのに、恋も仕事もうまくやらなきゃと焦って空回りして、一番大事だった想いを手放してしまった。

私は小さくため息を吐くと、手の中のシルバーリングをそっと握った。

金属独特の小さな冷たさがすぐに手のひらの熱で緩和されていく。そしてわずかに熱を帯びた指輪を再び見つめた時、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。

──『もうすぐ着くから』

待ち合わせの時間まであと十分。