シルバーリングの微熱

でもその夜は、どうしてもどうしても彼に会いたかった。私を選んで欲しかった。一番に考えて欲しかった。なぜそこまで頑なになっていたのか自分でもいまだにわからない。

『ごめんな、小雪』

苦しげにそう言った彼の声はいまだに鮮明に思い出せる。智広はちっとも悪くない。悪いのは私の方だ。

そうわかっているのに、その夜を境に私にとっての智広という存在があやふやになってしまった。

辛い時にそばにいてくれるのが恋人なんじゃないだろうか。
滅多に口に出さない我儘を本当に好きなら無下にしないのではないだろうか。
本当に智広は私を好きなんだろうか。
この関係は惰性なんじゃないだろうか。

結果的に恋人より仕事を選んだ酷い男だという認識が芽生えたのは確かで、この恋の結末を全て智広のせいにすることで、私は自分の未熟で生ぬるく弱い自分を正当化しようとしたんだと、今になっては思う。


──『別れよう』

電話で声を聞けば心が揺らぐかもしれないと思ってLINEにした。智広もきっとそれをわかっていたんだと思う。
私の送ったLINEに既読がついて一週間後に『わかった』とだけ返事がきて智広とはそれっきりだ。

「もう三年、されど三年か」

小さく呟いた声は誰にも届くことなくワンルームの部屋に寂しく響いた。