「は~……疲れた……」
仕事を終えてさっさと帰ろうとした時だった。
「お疲れさまです平塚さん。あ、ちょっと待ってください」
と、同じ職場の年下後輩の沢木さんは俺にそう言うと、自身のロッカーを開けて、鞄をがさがさと探り、何か小さな箱のようなものを取り出すと。
「……あ、平塚さん甘いもの食べられましたっけ?」
「え?うん、食べられるけど……」
「なら、これどうぞ」
と、沢木さんは鞄から取り出したその小さな箱を俺に渡した。お洒落な赤い包装紙に包まれた小さな箱。これは──
「今日バレンタインなので。チョコレートです」
と、沢木さんは真顔でそう言った。
「え?俺、貰って良いの?」
「はい」
「あ……ありがとう?」
「それじゃ、お疲れさまです」
そう言ってぺこっと頭を下げると、沢木さんはそそくさとロッカールームから出ていった。
──……あ、そうか、今日バレンタインだったんだ。俺には縁の無いイベントだったから、完全に忘れてた。ていうか……え?このチョコは……?何故俺に?いや、絶対義理だよな?あれだよな『いつもお世話になってるお礼です』的なやつだよな。まさか本命……
「いやいやいや!なわけないよなー!」
と、貰ったチョコを片手に持ちながら、手を振ってはははと小さく笑った。
まあなんにしても、バレンタインチョコとか久々だわ。義理だろうがなんだろうが嬉しい。
チョコを鞄に入れてロッカールームから出ると、沢木さんは他の人にもチョコを渡していた。
「え!?貰って良いの!?沢木さん!」
「はい、いつもお世話になってるお礼です。ありがとうございます」
そう言いながら、男性そして女性にもチョコを渡していた。
やっぱ、お礼のチョコか──……って、あれ?
そう思いながら見ていると、あることに気づいた。
沢木さんがみんなに渡しているチョコと、俺が貰ったチョコが違う。みんなが貰っているチョコは、包装されていない、赤いパッケージの板チョコだ。それに、俺にくれたチョコは、沢木さんの鞄から直接出した物だったけど、みんなに配っているチョコは、茶色い紙袋から出していた。
いやまさか……そんな。
そう思いながら、俺はチョコを配る沢木さんの横を早足で通りすぎながら「お疲れさまでした~!」と、みんなにそう言うようにして、駐車場に急いだ。自身の車に乗り、鞄から沢木さんに貰ったチョコの箱を取り出し、両手で持ってじ~……っと見た。
「……やっぱ、みんなが貰ってたチョコと違う。みんなには、ただの板チョコを配ってた。なんで俺のだけみんなと違うんだ?」
と、俺は小さく独り言を言いながら、そのチョコの箱を眺めた。明らかに、みんなのチョコとは違う箱……
俺は胸の中にある小さな期待を、鼓動と共にだんだんと大きくさせながら、箱のリボンをほとき、包装紙を丁寧に広げた。すると中には、折り畳み式の小さなメッセージカードが入っていた。
そこには。
『平塚さんへ。好きです。よろしければ、お付き合いしたいです。』
と、書いてあった───



