ミラージュ・プリンセス♡ 〜私が、王女さまって本当ですか?〜

 私は、ロゼリアの私室のふかふかなソファに深く沈み込んでいた。
 部屋には、私と護衛の三人だけ。
 窓の外はすでに茜色から群青色にじわりと染まり、夜が近づいている。

「……逃げられました。申し訳ありません」

 ライトが悔しそうに拳を膝に叩きつけた。

「煙玉を使われたんだ。地下水道に逃げ込まれて、足取りを見失った。僕の発明品があれば……!」

「自分を責めるな、ライト。相手はプロの暗殺者だからな」

 ユーリウスが冷静に、けれど苦い顔で言った。
 彼はテーブルの上に置かれた証拠の一つ――蛇の紋章が入った黒い矢をじっと睨んでいる。

「この矢一本では、宰相ジョナルゼキオンを断罪するには弱すぎる」

 レオンハルトが重々しく口を開いた。

「『倉庫から盗まれた』『罠だ』と言い逃れされたら、それまでです。宰相は貴族たちへの根回しもうまい。確実な証拠なしに告発すれば、逆にロゼリア様が『乱心した』と攻め立てられるでしょう」

「そんな……じゃあ、泣き寝入りしろってこと?」
 
 私は身を乗り出した。

「あんなに怖い思いをしたのに、あの意地悪そうな宰相を見逃すの?」

「いいえ。ですが……」
 
 レオンハルトは苦渋の決断をするように、私を見た。

「今夜の晩餐会への出席は中止にすべきです。ロゼリア様の安全が第一です。敵の正体がわかった以上、無防備に姿をさらすわけにはいきません」

 部屋に沈黙が落ちる。
 もちろん、安全策をとるなら、それが大正解だと思う。
 部屋に鍵をかけて、布団をかぶって震えていれば、今日一日は生き延びられる。  

 でもきっと、それじゃ、何も解決しない。

 明日の朝、ロゼリアが戻ってきたとき、命を狙う宰相がそのままだったら?
 ロゼリアはずっと怯えて暮らすことになる。

 またいきなり私の部屋の鏡から現れて「変わって!」って言ってくるかもしれない。
 それはちょっと、困るよね……。

「……ううん、出よう。出ます」