少し話を聞いてくれますか。
ええ、そこまで時間はかかりませんから。
私が子供頃の思い出……みたいなものです。
ただそれだけなので。
「●●ちゃーん! 交換しようー!」
それがクラスメートの美琴さんの口癖でした。
同じ献立の給食でも、遊んでいる時に買った駄菓子でも、お互いの筆記用具でも、とにかくなんでも交換したがるのです。
友達だった私は、いつも美琴ちゃんの交換に応じていました。
特に断る理由もないし、そうやって交換するのが楽しかったのです。
美琴ちゃんの価値観は独特で、交換でこちらが得をすることが多かった気がします。
短くなった鉛筆を渡したらガラスの宝石をくれたり、ペットボトルの蓋と新品の消しゴムを交換してくれたり、飴玉一つのために五百円玉を渡してきたり。
交換という行為そのものが好きだったのかもしれませんね。
だけど他の子は違いました。
「美琴ちゃん、なんか嫌かも」
「確かに。いつも交換交換ってうるさいもん」
「無視しようよ」
「そうだね」
小学六年生の頃、美琴ちゃんの友達はどんどん減っていきました。
みんな彼女を不気味がっていたのです。
これについてはあまり擁護できませんね。
実際、美琴ちゃんの交換欲求は常軌を逸しており、時と場所と相手を弁えず、会話に割り込んで頼み込むことも多かったのですから。
私も彼女を無視するように言われましたが、いじめに加担したくなかったので断りました。
それで「空気を読めない子」という烙印を押されたものの、私までいじめられるようなことはなかったです。
美琴ちゃんの噂は、子供から親へと広まっていました。
彼女の行動は当時の保護者会でも何度か問題として挙がっていたそうです。
その影響か、母が何度か心配そうに尋ねてきたのを憶えています。
「あんたさ、美琴ちゃんって知ってる?」
「うん。知ってるけど。それがどうかしたの」
「なんか怖い子みたいだから、大丈夫かなぁって」
夕食を作る母は、こちらを見ずにそう言いました。
幼かった私はそれでも妙な空気を感じ、わざと明るい口ぶりで応じました。
「美琴ちゃんとは喋ってないから平気! それよりお腹空いた!」
「はいはい、もうちょっとでカレーできるからね。お皿の準備してくれる?」
「わかったー!」
今思うと、母は私の嘘に気付いていたかもしれません。
ですが下手に問い詰めるべきではないと考えたのでしょう。
子供なんて厳しく禁じれば禁じるほど反発してしまうものです。
それ以来、母の口から美琴ちゃんの名前が出てくることはなかったです。
「●●ちゃん! 今日はお弁当の交換しようね」
遠足の日、美琴ちゃんはいつも通り交換を要求してきました。
私は笑顔でミートボールを渡して、代わりにコロッケを貰いました。
美琴ちゃんはずっと嬉しそうでした。
だけど私は、ふと意地悪なことを考えました。
(もし交換を断ったら、どんな反応をするんだろう)
別に美琴ちゃんが嫌になったわけではありません。
本当に好奇心で閃いてしまったのです。
そして数日後、私はこの思い付きを実行してしまいました。
宿題のプリントの交換を申し出てきた美琴ちゃんに対し、堂々と言い放ったのです。
「交換はしないよ」
「え?」
「プリントの交換はしない。先生に怒られるから」
別に怒られるわけもないのですが、私は適当に言い訳して断り続けます。
すると美琴ちゃんは、机からハサミを取り出しました。
そして、いきなり自分の指を切り始めたのです。
美琴ちゃんの行動に気付いたクラスの子たちは一斉に悲鳴を上げました。
みんな大慌てで教室から逃げ出して、固まった私だけがその様子を見守ります。
その時の私は頭が真っ白で動けなかったのです。
ぼとり、と血だらけの指が落ちました。
美琴ちゃんはそれを拾うと、泣き笑いを浮かべて私に言いました。
「じゃあ指……私と●●ちゃんの指、交換しよ?」
ええ、そこまで時間はかかりませんから。
私が子供頃の思い出……みたいなものです。
ただそれだけなので。
「●●ちゃーん! 交換しようー!」
それがクラスメートの美琴さんの口癖でした。
同じ献立の給食でも、遊んでいる時に買った駄菓子でも、お互いの筆記用具でも、とにかくなんでも交換したがるのです。
友達だった私は、いつも美琴ちゃんの交換に応じていました。
特に断る理由もないし、そうやって交換するのが楽しかったのです。
美琴ちゃんの価値観は独特で、交換でこちらが得をすることが多かった気がします。
短くなった鉛筆を渡したらガラスの宝石をくれたり、ペットボトルの蓋と新品の消しゴムを交換してくれたり、飴玉一つのために五百円玉を渡してきたり。
交換という行為そのものが好きだったのかもしれませんね。
だけど他の子は違いました。
「美琴ちゃん、なんか嫌かも」
「確かに。いつも交換交換ってうるさいもん」
「無視しようよ」
「そうだね」
小学六年生の頃、美琴ちゃんの友達はどんどん減っていきました。
みんな彼女を不気味がっていたのです。
これについてはあまり擁護できませんね。
実際、美琴ちゃんの交換欲求は常軌を逸しており、時と場所と相手を弁えず、会話に割り込んで頼み込むことも多かったのですから。
私も彼女を無視するように言われましたが、いじめに加担したくなかったので断りました。
それで「空気を読めない子」という烙印を押されたものの、私までいじめられるようなことはなかったです。
美琴ちゃんの噂は、子供から親へと広まっていました。
彼女の行動は当時の保護者会でも何度か問題として挙がっていたそうです。
その影響か、母が何度か心配そうに尋ねてきたのを憶えています。
「あんたさ、美琴ちゃんって知ってる?」
「うん。知ってるけど。それがどうかしたの」
「なんか怖い子みたいだから、大丈夫かなぁって」
夕食を作る母は、こちらを見ずにそう言いました。
幼かった私はそれでも妙な空気を感じ、わざと明るい口ぶりで応じました。
「美琴ちゃんとは喋ってないから平気! それよりお腹空いた!」
「はいはい、もうちょっとでカレーできるからね。お皿の準備してくれる?」
「わかったー!」
今思うと、母は私の嘘に気付いていたかもしれません。
ですが下手に問い詰めるべきではないと考えたのでしょう。
子供なんて厳しく禁じれば禁じるほど反発してしまうものです。
それ以来、母の口から美琴ちゃんの名前が出てくることはなかったです。
「●●ちゃん! 今日はお弁当の交換しようね」
遠足の日、美琴ちゃんはいつも通り交換を要求してきました。
私は笑顔でミートボールを渡して、代わりにコロッケを貰いました。
美琴ちゃんはずっと嬉しそうでした。
だけど私は、ふと意地悪なことを考えました。
(もし交換を断ったら、どんな反応をするんだろう)
別に美琴ちゃんが嫌になったわけではありません。
本当に好奇心で閃いてしまったのです。
そして数日後、私はこの思い付きを実行してしまいました。
宿題のプリントの交換を申し出てきた美琴ちゃんに対し、堂々と言い放ったのです。
「交換はしないよ」
「え?」
「プリントの交換はしない。先生に怒られるから」
別に怒られるわけもないのですが、私は適当に言い訳して断り続けます。
すると美琴ちゃんは、机からハサミを取り出しました。
そして、いきなり自分の指を切り始めたのです。
美琴ちゃんの行動に気付いたクラスの子たちは一斉に悲鳴を上げました。
みんな大慌てで教室から逃げ出して、固まった私だけがその様子を見守ります。
その時の私は頭が真っ白で動けなかったのです。
ぼとり、と血だらけの指が落ちました。
美琴ちゃんはそれを拾うと、泣き笑いを浮かべて私に言いました。
「じゃあ指……私と●●ちゃんの指、交換しよ?」

