魔族の娘と盲目の王子

「そうですか。……ならば最後にもう一度。あの美しい歌声を、僕に聴かせてくれませんか?」

「……歌を、歌うのですか?」

「ええ。歌を。君の声が、また僕を導いてくれるように」

 ラビーネの体は、まるで朝露が陽光に溶けていくように、今にも泡となって消えてしまいそうでした。
 王子の慈愛(じあい)に満ちた問いかけに応えようと、彼女は精一杯に喉を震わせますが、別れの悲しみに声は掠れ、音になりません。

 すると王子は、彼女の震える手を握ったまま、自ら静かに歌を口ずさみ始めました。
 それはラビーネを包み込むような、そして彼女を一人にはさせないという決意に満ちた、春の陽だまりのようなメロディです。

 ラビーネの目から、大粒の涙がぽろぽろと溢れ出しました。  
 彼女も王子に導かれるように、声にならない、けれど魂の底からの旋律を重ねます。

(離れたくない。王子様と、ブラウンと……。光が降り注ぐこの美しい国のみんなと、もっと一緒にいたい。生きたい……)

 その一途な、誰のためでもない彼女自身の「生の願い」が、歌声となって森中に響き渡りました。

 二人の想いが重なったその時、ラビーネの体は、泡を消し去るほどの眩く柔らかな光に包まれました。