魔族の娘と盲目の王子

 朝日が、雨に濡れた森を無慈悲なほど鮮やかに照らし出します。
 そこには、一輪の花を愛でていた可憐な少女の姿はなく、異形の孤独な獣が立ち尽くしていました。

  騎士ブラウンは、抜いた剣を鞘に戻すことさえ忘れ、石像のように固まったまま、彼女を見つめ続けていました。
 ブラウンはこれまで数多の戦場で死線を超えてきましたが、目の前の光景には言葉を失いました。

 それは決して恐怖からではありません。

 異形の怪物の瞳に宿る、あまりにも深く、透明な「悲しみ」に、魂を射抜かれたのです。

「ラビーネ……?」 リノス王子が、静寂(せいじゃく)の中に響く荒い吐息を察して、そっと空(くう)に手を差し出しました。

「どこにいるのですか? 怪我はないのですか……?」

 人間界にいられる時刻が迫り、彼女の体は足元から徐々に泡となり、光の粒となって天に昇り始めました。
 ラビーネはアフディーとの約束――最後の願いを叶えるため、王子に背を向けました。

 そして、喉を裂くような別れの言葉を絞り出しました。

「……来ないでください!」

 その声はもはや、春風のような響きではありません。
 地を這う獣の唸りが混じった、おぞましい音でした。

 ラビーネは、自分の姿を、その声を、そして自分自身の運命を激しく呪いながら、叫びを上げました。