魔族の娘と盲目の王子

 王子が信じてくれた「春の夜明けのような姿」とは正反対の、忌まわしき本来の姿。
 それは、彼女が最後まで隠し通したかった、誰かに愛されたいと願うあまりに抱いていた臆病な恋心でした。

 ラビーネはその感情を自ら破り捨て、愛する者たちの盾になる修羅の道を選んだのです。
 彼女は、迷うことなく逃げ惑う追手たちに鋭い指先を向けました。

 放たれたのは、吹き荒れる嵐が枯れ葉を散らすような、圧倒的な力の奔流(ほんりゅう)。
 兵士たちは、自分たちが呼び覚ましてしまった「真の恐怖」に、腰を抜かさんばかりに悲鳴を上げています。

 雷鳴が轟き、突風が太い木の枝をも巻き上げ、逃げ惑う追手たちに襲いかかりました。
 その混乱の最中、森の木陰から心配する目が「ちらり」囁くような声が聞こえました。

「ウホマイシラバスハレコ!」

 その言葉のあと、あの大樹から揺れ落ちた巨大な蜂の巣が、運命の悪戯か、カスパールの頭上に真っ逆さまに落ちてきました。

「あがぁっ。父上、痛い。何も見えないのでございます。 痛い、誰か、私を助けて欲しいのですー」

 頭から黄金色の蜂蜜と怒り狂う蜂を被り、不格好にのたうち回る息子。
 バルトロメウスはその情けない光景を見て忌々しげに舌打ちをすると、憎悪に満ちた目でラビーネを睨みつけました。

「おのれぃ、化け物めが」