魔族の娘と盲目の王子

 パチパチと爆ぜる死の調べが、夜空を呪わしく舞い踊ります。

「王子、ラビーネ殿! ぐずぐずしてはいられません。今すぐ、この森から逃げ出すのです!」

 包帯を巻いたブラウンの叫び声に、ラビーネはハッと我に返りました。
  駆け寄るブラウンの手には、あの不思議な鏡が握られていました。

(私の鏡まで、守ってくれていたの……)

  盲目の王子の盾となり、深手を負いながらも気高く立つ騎士ブラウン。

 けれど、逃げ出すよりも早く、炎は牙を剥きました。 火の粉が舞い落ち、目の前を塞ぐと、ラビーネは立ち止まり、激しく燃え上がる炎を真っ直ぐに見つめました。

 愛した木々や花々、そして「サトニシキ」を届けてくれた森の仲間たちの悲鳴が、炎の爆ぜる音に混じって聞こえてきます。

 目の前には、天まで届くような激しい炎の壁。
 彼女の手の中にある鏡には、女神アフディーが授けた魔法が、あと二つだけ星のように灯っていました。

 それは、彼女が「自分自身の幸せ」つまり、無事に家へ帰るために残しておいた、たった二つの奇跡でした。
 ラビーネは、迷うことなく魔法の星を一つ天に掲げました。

「鏡よ、この惨い火を、どうか静かな雨に変えておくれ」