魔族の娘と盲目の王子

 彼らにとって、光を知らぬリノス王子は、玉座を汚す「弱き白鳥」でしかなかったのです。

「危ない!」 鋭い風を切る音が響き、王子を庇う騎士ブラウンの鋼のような腕に、矢がかすめました。

 鮮やかな紅い血が、草原の緑を汚します。その赤は、まるで美しい夢の終わりを告げる、残酷な封蝋のようでした。

「王子、こちらへ!」 ブラウンは呻き声を噛み殺すと、王子を抱え上げ、深く、より深い森の奥へと駆け込みました。 背後からは、狩人のような冷たい笑い声が追いかけてきます。

「逃がすな! あの白鳥を、永遠の眠りにつかせてやるのだ」

 三人は、古びた大樹の根元。まるで森の心臓のように静まり返った場所で、息を潜めていました。
 ラビーネは、足元に咲く名もなき草を摘み取ると、そっと騎士に差し出しました。それは、痛みと傷を癒やす不思議な力を持つ薬草でした。

「じっとしていて。この草が流す緑の涙が、あなたの傷を塞いでくれるわ」

 鉄のように固い騎士の腕に、少女の羽のような指先が触れました。ブラウンはその温かさと、自分たちを見つめる澄んだ瞳に、石のように頑な(かたくな)だった心を溶かされました。

(この方は魔族などではないのか? 姿は違えど女神のようなお方だ……)