魔族の娘と盲目の王子

 ブラウンは「ジッ」とラビーネを見つめた後、無言でリノス王子に近づき、馬の手綱を掴みました。
 ラビーネはどうしていいかわからず、左右の人差し指の先をチョンチョンっとつけたり離したりしています。

(何故だろう? この人に見つめられると、全ての行いができなくなってしまう) 

 リノス王子が、もう一度「さあ」と声をかけると、ラビーネは緊張して顔を赤らめました。
 彼女が精一杯の声を絞り出そうとした、その時です。

「リクエストを承りました。雰囲気優先モードで再生します」

  不思議な鏡が勝手に言葉を返すと、重厚なパイプオルガンの伴奏と共に、童謡の「チューリップ」を歌い始めました。

「さ〜い〜た〜 さ〜い〜た〜 ちゅ〜りっぷっの〜は〜な〜が〜」

 慌ててシステムを止めようとするラビーネに対し、幼い子の歌声が森に響き渡ります。

「な〜ら〜んだ〜 な〜ら〜んだ〜 ちゅ〜りっぷっの〜は〜な〜が〜」

 リノス王子は、その微笑ましい歌詞の間違いに、軽く握った手を口元に当てて微笑みました。

 けれど、その一瞬。春の陽だまりを切り裂いたのは、鋭い金属の唸り声でした。

 光の届かぬ暗がりから放たれた、悪意に満ちた一筋の矢。
 王子の命を狙うのは、あろうことか同じ血を分けた親族たちでした。