魔族の娘と盲目の王子

「私の耳には、誰かを傷つけようとする悪意ではなく、ただひとつの魂が震える、悲しみの音が聞こえてくるのです。そこには、怯えているお嬢さんがいるのでしょう?」

 王子の心を諭すかのように、彼を乗せた馬が、誰に操られるでもなく自ら歩みを進めました。
 カポッ、カポッという規則正しい蹄の音だけが、張り詰めた空気を優しく解いていきます。

 神様が地上へ色を落とし忘れたかのような、静かな森の奥底。
 光を知らぬ王子と、光を禁じられた魔族の娘が、運命の糸に手繰り寄せられるように向き合いました。

 王子の瞳には、ラビーネの異様な角も、蒼い肌も映りません。ただ、彼の清らかな心という鏡には、彼女が流したばかりの涙の輝きだけが、星のように鮮やかに映し出されていたのです。

 リノス王子は、馬の上からそっと細い手を差し伸べました。

「姿は見えずとも分かりますよ。あなたは、この森に咲くどの花よりも、気高く、そして孤独な香りを持った方だ。……お嬢さん、どうかその震える声で、もう一度私に歌を聴かせてくれませんか?」

 ラビーネは大丈夫だと思いましたが、念のため、自身の左右の手を鼻を近づけ、匂いを確かめました。