(俺だよ…)
正面入り口脇で牽制し合う三つ子の前を走り込みながら、緑郎は遠い目をした。
柔道部は部活の始めと終わりに走り込みをする。先輩として後輩の前を走りながら、無言で牽制し合っている三つ子の前を通った緑郎は彼らが何を考えているのかなんとなく察していた。
というのも、あの三人が妹の桃子の初恋相手を探っているのを偶然知った緑郎は、興味本位から妹本人に初恋の経緯を聞いていた。
三人の内誰だかわからないなんて頭の悪いことを言っているから、俺ならエピソードを聞いたら誰だかわかるかもしれないなんて言って聞き出した。
そして語られた内容。
もの凄く、覚えがあった。
(いや、それ、俺…)
あの頃の緑郎は年上なのに三つ子とほぼ同じ背丈で、並ぶと四つ子のようだった。
顔は似ていないが、年の近い男友達ともなれば気易くなる。正直妹と遊ぶより楽しかった。
そんな機微を察知した妹が拗ねて、一人歩きを開始して、迷子になったときのことだ。迷子の桃子を探して四人で走り回った。
結局緑郎が桃子を見つけて、おんぶして運び、あまりに泣くから適当に花を摘んで与えた。桃子は兄に構われてご機嫌だった。それは覚えている。
迷子の妹を迎えに行った兄が一生懸命妹を泣き止ませようと苦心した結果がこれだよ。
(まさかそれが高熱でときめきに変換されて初恋扱いになるとは…)
お兄ちゃん大好きーって気持ちの大好きーっだけが残り、一緒に遊んでいた三つ子の誰かが相手だと記憶がごちゃ混ぜになったのだろう。三つ子が相手だと思ったからこそ、初恋だと勘違いしているのかもしれない。
桃子は多分、三つ子のことが気になっている。
三人がアプローチするので、三人の間でぐらぐら揺れているのだ。三人が平等に気になるのだろう。
そんな自分を後押しするために初恋が知りたいのだ。三人が平等に気になるから、初恋というアドバンテージで自分の心の方向性を決めたい。
三人に惹かれるのは不健全だと思っているので、初恋相手がわかるまで三つ子の誰かに傾くことはないだろう。恋に恋するからこそ、たった一人と恋愛したいのだ。
だがそれは桃子の事情。
身近に二人も恋敵の居る三つ子からしてみれば、自分が初恋相手でないと分かっているからこそ、押しに押しまくるだろう。
あの三つ子は我が強い。
尤も身近な存在だからこそ、お互い負けたくないと奮起している。
(あの勢いだし、放っといても勝手に盛り上がっていずれ誰かとくっつくだろ、多分)
初恋を気にする桃子を丸め込めるか。
彼らの内の誰かが桃子を射止めるならそれで良し。
何やら拗れるようなら、それとなく彼らの前で笑い話として語ればいい。
だからそのときまで。
(秘密にしとこ)



