初恋誰だ



「なんでお前らもいるんだよ」
「別にいいだろ」
「あー、どうしよ。部活終わりは炭酸かな。お茶かな。水の方がいいかな。桃子は緑茶が好きだけど部活終わりに合う…? 合わない…?」
「スポドリでいいだろ」
「ああっ!」
「勝手に押すなよ青樹~」

 正面玄関の手前にある自販機前。
 適当に時間を潰していた三人は、部活の終了時間を見計らっていつもの待ち合わせ場所に集合していた。
 自分が最初に誘ったのに便乗している二人に口を尖らせる赤城。部活終わりの差し入れに悩む黄貴。その横から勝手に決めてボタンを押す青樹。
 三人は文句を言い合いながら、青樹は背筋を伸ばし、黄貴は少し猫背になり、赤城はヤンキー座りで長男次男三男の順に壁側に並んだ。
 その横を、帰宅する学生が通り過ぎていく。

「見て、新合さん家の三つ子君だ」
「わ、並びが信号機」
「ほんとだぁ」
(聞こえてんだよ失礼な奴らだな)

 青樹は心の中で舌打ちした。
 彼は優等生で内向的な格好をしているが、実は三人の中で一番喧嘩っ早い。

 彼らが有名なのは三つ子で見た目が整っているだけでなく、覚えやすい名前の所為もあった。
 新合家。上から青黄赤。三人揃って「き」で終わる名前。
 しんごう。三色。き。
 しんごう、き。
 信号機。

 団子三兄弟ならぬ、信号機三兄弟としてご近所で有名だった。

(くだらねー)

 赤城は心の中で舌を出す。
 世渡り上手な彼は、三人の中で一番本心を隠すのに長けていた。

 小さい頃は周囲から構われる理由がわからなかったが、両親を含めた周囲は洒落た名付けだと思っているらしい。
 だが本人達は、物心つく頃には三人揃って不貞腐れるくらいイヤだった。
 とにかく信号機信号機と周囲が煩い。色の通り並んでと要望が多く、面倒なのでいわれる前に青黄赤で並ぶようになってしまった。

(違う反応だったのは、桃子ちゃんだけだったなぁ…)

 黄貴はしみじみと、いつも元気な幼馴染みとの出会いに思いを馳せた。
 彼は心配性だが、実は三人の中で一番他人に興味がない。
 そんな彼が興味を持っているのは同時に生まれた兄弟と、お隣の町角兄妹だけだった。

 新合兄弟と町角兄妹は幼い頃からの付き合いだが、生まれた頃からではない。
 町角家は、三つ子が小学三年生の頃に隣に引っ越してきた。彼らの付き合いはそこから始まった。

 挨拶に来た町角家。ごく普通のサラリーマン一家。年上の男の子一人、同い年の女の子一人。
 三つ子は自己紹介で、また信号機といわれるのかと辟易していた。両親は嬉々としてネタにするので逃げられないし、初対面では必ず通過するお約束だった。初対面では、三つ子は不貞腐れた顔をしていた。
 桃子は三つ子の名前を聞いて、わあ! と声を上げ。

「すごい! 私達、町の平和を守れるよ!」

 なんて喜んだ。
 新合家は全員できょとんと間抜けな顔をした。
 そんなお隣さんを置いてけぼりに、桃子は新合家の玄関で、元気に決めポーズを取る。

「レッド! ブルー! イエロー! グリーン! 私がピンク! 町角戦隊シンゴージャー!」
「炊飯ジャーみたいに言うのやめろ」
「すみませんうちの子、魔法少女より特撮が好きで」
「今度一緒にパトロールしよう! 町の平和を私達が守るのよ!」

 そう言って笑った女の子に、不貞腐れていた三つ子は呆然と口を開けた。

 後日、新合家の三つ子君が信号機と呼ばれていることを知った桃子だが「信号の青は緑なのにおかしいね」と不思議そうだった。彼女の中で三つ子は信号機ではなく戦闘員なのだ。

 もうそれだけで愛した。
 それくらい信号機信号機言われるのが苦痛だった。多感なお年頃だった。
 信号機と揶揄われるより、戦隊ものごっこで戦闘員として扱われる方が少年の心を活気づけた。
 年上の緑郎を巻き込んで戦隊ものごっこをするのは楽しかった。子供っぽいと揶揄ってきた相手は怪人に見立ててボコボコにしてやった。うるせーだまれ今楽しいから邪魔すんな!

 しかし時が経つにつれ、三つ子はお互いが同じ子に秋波を送っていることに気付き…。
 三つ子は三つ巴になった。

「絶対レッド! ピンクはレッドとくっつくのが定石だろ! だからレッドのボクと桃ちゃんがくっつく!」
「妄想と現実を混合すんな。桃子は真面目な人がいいって言ってたから、優等生な俺を選ぶはずだ」
「で、でも青樹は皮だけ優等生だから…本当はだらしないの知られているから難しいんじゃない…?」
「そうだよお前の部屋が一番汚い癖によく言えたな」
「ぐう…っ、うるせぇ乙女思考野郎と考える人に言われたくねぇよ! 赤城はお伽噺の王子様を信じる幼女と考え方変わらねぇし、黄貴は熟考しすぎて銅像じゃねぇか!」
「夢見がちって言いたいのかこらぁ! 童話馬鹿にすんなよ!」
「だ、だって色々考え出したら止まらなくて…! 桃子ちゃんはどんな異性がタイプかなとかオレのこと嫌いじゃないかなとか声かけて平気かなとかまだ一緒に帰ってくれるかなとかわからないことがあると中指で唇触るのかわいいなとか隣の席の男子とどこまで仲がいいのかなとかスカートめくりした奴は遊びのフリして本気で殴ってもいいかなとか…!」
「長い長い」
「早い早い」
「桃子ちゃんの初恋は誰かなとか…!」
「「それは気になる」」

 男も女も関係なく、好きな人の初恋相手は気になる。
 幼い頃から一緒に居た幼馴染みなら特に。
 もしかして…自分では…!? などという幸せな予感も抱えながら。

 三人はその点に関して、密かに独自にリサーチ済みだった。
 それぞれが桃子の友人を買収して、それぞれで話を聞いて貰っていた。
 結果。

「ええと、戦隊ものごっこしているときにうっかり知らない道に入っちゃって…それを迎えに来てくれたんだけど…」
(迷子の桃ちゃんを迎えにいけた奴…走り回って道に詳しい青樹か?)
「転んで泣いてた私をおんぶして連れて帰ってくれてね…」
(ほぼ同じ背丈だった桃子をおんぶして帰れる力持ち…黄貴か?)
「痛くてずっと泣いてた私に、道端の花を摘んで慰めてくれたの!」
(桃子ちゃんが喜ぶことを平然とやってのける…もしかして赤城…?)
「でも誰だったか覚えてないの…三人の内の誰かだった筈なんだけど…」

 以上の情報から、三人揃って口に出さないがこう思っていた。

(((俺 / オレ / ボク じゃない…!)))

(誰だ…桃子の初恋相手は誰だ…!)
(自分だってわかったらマウントとってくるから相手はまだ気付いていない…)
(気付かせたくない…! 気付かせたくないから余計な情報を教えたくない…!)

 三人は無言でお互いを牽制し、探り合っていた。

(((初恋相手、誰だよ…!)))