ユキとアリのバレンタインの奇跡

 二月十四日、バレンタインデー。
 小学四年生のユキはどきどきしながら学校からの帰り道を歩いていた。雪が降ってて寒いけれど心は温かい。今日は隣のクラスの大好きなハルトくんに手作りチョコレートを渡す日だからだ。
「うまく渡せるかな」
 公園の前を通りかかった時、
「あれ? アリ?」
小さなアリが一匹、雪の上をよろよろと歩いているのを見かけた。
こんな寒い日に、どうしてアリさんがお外にいるの?
ユキが不思議に思っていると、
「助けて……仲間を」
 こんな声が聞こえて来てユキは目を丸くした。
「アリが喋った!?」
「仲間が、土の中に閉じ込められて」
 アリは震えながら公園の花壇を指さした。土が固まって小さな穴が塞がっている。
「わかった!」
 ユキは急いで木の枝を拾って、固まった土を掘り始めた。すると中から十匹ほどのアリ達がぞろぞろと出て来た。
「ありがとう!  きみのおかげで助かったよ。お礼に、願いを一つだけ叶えてあげる」
「え? 願い?」
 チョコを渡す勇気が欲しい。ユキはそう思ったけれど、自分で頑張らないとダメな気がした。
「じゃあ……ハルトくんが私の作ったチョコを美味しいって言ってくれますように」
「わかった!」
 アリたちは一列に並んで土の中へ消えていった。


「あの、ハルトくん……これ」
 あのあとユキは震える手でチョコを差し出した。
 ハルトくんは「ありがとう」と言って受け取り、包みを開けた。
 そして、一口。
「……」

ハルトくんはしばらく黙り込んだ。
ユキの心臓が、どくん、と大きく跳ねる。

「……これさ」

「う、うん……?」

「チョコとしては、正直ちょっと変わってるかな」
 ユキの胸が、きゅっと縮んだ。
「でもね」
 ハルトくんはもう一口、小さくかじった。
「ユキちゃんのこと、なんか思い出す味なんだ」
「え……?」
「甘いだけじゃなくて、ちょっと不器用で、でもあったかい感じ。だからさ」
 ハルトくんは照れくさそうに笑った。
「ボクは、このチョコ好きだよ」
その瞬間、ユキの胸の奥がぽっと熱くなった。

家に帰る途中、ユキはふと足元を見る。
雪の上に、小さなアリの行列ができていた。
今度は何も運んでいない。
ただ、きれいに並んでくるっと向きを変えた。
まるで
「“美味しい”って、味だけじゃないでしょ?」
そう言っているみたいに。

ユキは小さく微笑んだ。

願いは、ちゃんと叶っていた。
ユキが思っていた形とは、少し違ったけれど。
それはきっと、いちばん大切なところで起きたバレンタインの奇跡だった。