君となら地獄を見たい


それからトースターでガーリックトーストを焼いた一閃くんは、ビーフシチューを皿によそい、食欲をそそるガーリックの香りを漂わせるトーストと共にオボンに乗せると、「俺、大樹さんに届けに行って来ますね!」と言い、エレベーターに乗ってB8へと向かって行った。

「一閃の飯は、どれも美味いんだよなぁ〜!」

そう言いながら、皿に自分用のビーフシチューをよそうボス。
すると、自分の分のビーフシチューをよそい終えたボスは、わたしの皿を手に持ち、わたしの分まで用意してくれようとした。

「なっちゃんもいっぱい食えよ?」
「はい、ありがとうございます。」
「最近、やっとまともに食えるようになったからなぁ。安心したよ。」

そう言って、ボスは優しく微笑んだ。

ボスと出会ったばかりの当時のわたしは、ほとんど食べ物を口にしておらず、肋骨が浮き出る程に痩せ細っていた。
食欲も無ければ、食べ物を口にしても味は分からず、"美味しい"という感情も湧かない状態だったのだ。

しかしボスに拾われ、"ロスト·ダガー"に加入してから、わたしは変わっていった。

その"変わった"が善いのか悪いのかは、別の話だが。

「あれ?ボスのビーフシチュー、人参入ってませんね。」
「ぎくっ!」
「お肉ばっかり。」
「ぎくぎくっ!」
「ボス、野菜も食べないとダメですよ。」
「いやぁ、人参だけは勘弁して!」

そんな会話をしていると、エレベーターとは別にこのリビングに繋がった裏口の扉が開いた。

ふとそちらに顔を向けると、裏口から入って来たのは、頬に擦り傷を負ったメンバーの男だった。

「火鷹(ほだか)!」
「なんだ、良い匂いがすんな。」

そう言いながら入って来たのは、コードネーム"天柱火鷹(てんじ ほだか)"だ。
実は火鷹はボスの一人息子で、顔は父親から受け継いだ綺麗な顔立ちをしている。

幼い頃から剣道と弓道を習い、"アサシン"と呼ばれる多才な火鷹は、わたしが"ロスト·ダガー"加入時に最低限の護身術を教えてくれた、ある意味わたしの師匠でもあった。