君となら地獄を見たい


「君、良い目をしてるね。」

包丁を持つ手に力を込めた瞬間に聞こえた声。

わたしはその声に視線を上げると、そこにはサラサラの長髪を風に靡かせた、穏やかな表情を浮かべる男性が立っていた。

男性はわたしがやろうとしている行為を止めるでも無く、ただわたしを見つめ、優しく微笑んでいた。

「君···、今自分が何をしようとしているのか、分かっているかい?」

爽やかに漂う風のように耳に届いてくるその声は、わたしを止めようとする気配は微塵も感じない。

わたしは「あなたに関係ないじゃないですか。」と警戒心たっぷりに低く唸った。

「確かに関係はないね。でも、自死は何よりも罪深い行為だよ。」
「わたしに···生きている価値なんてありません。死なんて、怖くない。」

わたしがそう言うと、その男性は優しく微笑み、「いいね。」と囁くと、ゆっくりとわたしに歩み寄って来た。

そして、わたしの目の前まで来ると、わたしが握り締める包丁の刃の部分を掴み、ギュッと握り締めた。

男性の手のひらからは、ポタポタと真っ赤な違う滴り落ちる。

すると、その男性はわたしの顔を覗き込み「死が怖くないなら、俺と一緒に来ないか?」と言い、わたしから包丁を奪い取ったのだった。