わたしは社長室に戻ると、社長室のテレビで赤坂大臣のニュースを見るボスに、大樹さんからの報告を伝えた。
すると、いつもなら余裕な表情を見せるボスもさすがに緊張感を漂わせ、「全員ミクロマイクの着用。しばらくは、火鷹と綱海に社内の見回りを強化させよう。」と言った。
「了解しました。」
わたしはボスからの指示により、腕時計型の指示装置で全員に"ミクロマイク着用"の合図を送った。
それからすぐにメンバー全員から"ミクロマイク着用完了"の報告が届く。
それと共に綱海さんからは『"蟻"3匹の駆除完了しましたー』と連絡が入り、「そのまま社内の見回り継続でお願いします。」とボスからの指示を伝えた。
ちなみに"蟻"の駆除とは、『盗聴器破壊済み』を意味する。
「火鷹には俺から指示した。」
「ありがとうございます。綱海さんは、蟻の駆除が完了したようです。」
「そうか。それにしても、灰原に入られるとはなぁ。」
「灰原って男のこと知ってるんですか?」
「あぁ。うちでいう、綱海みたいな奴だよ。」
ボスからの話に(変装が得意ってことか。)と納得するわたし。
すると、わたしのデスクの内線電話が鳴り、わたしは3コール以内に電話を取った。
「はい、社長室です。」
『お疲れ様です。受付の相川です。』
内線の電話相手は、社内一階の受付嬢である相川さんからだった。
「お疲れ様です。」
『あのぉ、実は今、受付に官邸からお客様がいらっしゃってまして。』
「官邸から?」
『はい。山野総理の秘書と名乗る、市井(いちい)様という方です。至急、三浪社長にお会いしたいとの事なのですが、アポ無しなのでお断りしたんですけど、"どうしても"とおっしゃっていて······』
(山野首相の秘書?)
わたしはこのタイミングでの"総理大臣の秘書"の訪問に嫌な予感を感じ、相川さんに「三浪社長に確認しますので、市井様にはそのままお待ちいただいてください。」と伝え、内線を保留にした。
「山野首相の秘書を名乗る、市井という人物が受付に来てるようです。ボス、ご存知ですか?」
わたしがそう訊くと、テレビの前で腕を組み立っていたボスは、こちらを振り向くと「市井?」と言った。
「確かに山野首相の秘書の中に市井という男が居るのは知ってるけど···、念の為、大樹に確認させて。」
「了解。」
それからわたしはミクロマイク越しに大樹さんと連絡を取り、受付に来ているという"市井"が本物かどうかの確認をしてもらった。
『今確認したけど、この男は本物だな。通しても問題無い。』
「了解、ありがとうございます。」
わたしはそう言って大樹さんの確認を終えると、ボスの方へ目配せした。
ボスは短く頷くと「通していいよ。」と言い、"付き添い無しの市井ひとりで来る事"を条件に社長室に通す事を許可した。



