君となら地獄を見たい


(堕璃さんの事、ボスに報告しに行かなきゃ。)

そう思い、社長室へ向かおうとした時、左手首につけている一見普通だが、特殊な仕掛けが施されている腕時計が微かに振動した。

その振動は、大樹さんから呼ばれた時に振動するようになっている。

(大樹さんからだ。何だろう。)

わたしはボスに報告の前に先に、大樹さんが居るB8の監視室へと向かう事にした。

エレベーターに乗り、わたしはB8で降りると、分厚い鉄の自動ドアの向こうに進み、たくさんの監視カメラ映像を前にして腕を組み、立ちながら映像を見つめる大樹さんの元へと歩み寄った。

「お待たせしました、お呼びですか?」

わたしがそう言うと、大樹さんは一言「侵入者だ。」と低い声を響かせた。

「えっ。」
「清掃員に化けた奴が入り込んでる。」
「人数は?」
「一人。一見ただの腰の曲がったばあさんだが、中身は30半ばの男だ。」

大樹さんはそう言うと、わたしに一枚の紙を差し出した。

「"ブラック·ガルヴァス"の灰原(はいばら)って男だな。」
「"ブラック·ガルヴァス"······」

大樹さんが差し出した紙には、その灰原という男の情報が記されていた。

"ブラック·ガルヴァス"という組織は、わたしたち"ロスト·ダガー"が最も恐れている敵対する裏組織だった。

「灰原って男は、清掃員のばあさんに扮して、社内に盗聴器を仕掛けやがった。」
「場所の特定は?」
「特定済みだ。3箇所に仕掛けられている。」
「回収はどうしますか?わたしが行きましょうか?」
「いや、回収は既に綱海(つなみ)に頼んである。」

大樹さんが盗聴器の回収を指示した"綱海"とは、"ロスト·ダガー"メンバーのコードネーム"深峡綱海(しんかい つなみ)"だ。
綱海さんは性別年齢、体格関係なく自由自在に変装が可能で、役割としてはシーフ(盗み)を担っている。

メンバーの中では最年少で、実年齢は不明だが、本来の姿から推測するに20代前半だと思われる。

「でも、どうしてうちの会社に盗聴器なんて···」
「まだ定かではないが、あの"トロール"が死ぬ前に依頼したのかもしれない。」
「えっ、まさか······」

嫌な予感をさせる大樹さんの言葉にわたしの背筋が強張っていくのを感じる。

大樹さんは「この予測がハズレていればいいが·····」と呟くと、「念の為、ボスに報告しといてくれないか?」と言い、わたしは「了解しました。」と返事をすると、素早くエレベーターに乗り、ボスの元へと急いだのだった。