[短]私は見えてない

ねぇ、太智くん、パンケーキ食べたいな。
ねぇ、太智くん、やっぱりお寿司がいいな。
ねぇ、太智くん、そこの麦茶とって
ねぇたいちくん、ねむいからねよう

太一くんは全部、いいよと微笑んで言ってくれる。

だけど、太一くんは優しくなんかない。

彼は、私のことをみていない。

今、私の隣には彼がいるけど、彼の隣には私はいない。
彼はずっと腕をさわってる。正確に言えば、腕にあるミサンガを、かな。

幼なじみからもらったというミサンガ。
いいな、幼なじみは。
ずっと彼の記憶に残るし、彼は幼なじみのことを好きなまま。

彼の幼なじみは幼い時に亡くなった。
彼からは幼なじみの話はあんまり聞かない。聞いたのは幼い頃によく遊んでいて、交通事故で亡くなったってこと。
あとは、彼がずっと触ってるミサンガはその幼なじみから貰ったってこと。

幼なじみに貰っただけで、彼は特別な感情はないんじゃないか、って?

彼を見てたら分かる。ミサンガを触りながら愛おしい顔と切ない顔をしてる。
あーあ、その何だか切ない顔をしてるのが、色っぽく見えて魅力的だったのに。

今はそれが嫌いになりそう。

好きだから分かってしまった。

幼なじみについて聞いたことがある。

「ねぇ、幼なじみって女の子?」
「そうだよ」
「その子のこと好きだったの?」
「……え?……うーんそうだなぁ。ちっちゃい頃だから好きとか分かんないからなぁ。よく遊んでたなぁぐらいだよ。」

歯切れ悪かったな。私が傷つかないように優しく言ってくれたんだろうなっていうのが伝わって心に傷がついた。結局傷ついてるじゃんね。意味ないね。
外しちゃえばいいのに、って何回喉に詰まらせたんだろう。
よく遊んでたくらいなら、ずっとつけてる意味あるのかな。

でも、好きだったんでしょ。

いや、今も好きなんでしょ。

太智くん、私を見透かして幼なじみのこと、考えてるでしょ。

覚えてるよ。
お花見しようって私から提案したのに、私が遅刻しちゃった。遅刻したのは洋服にずっと迷ってたから。
白い色の王道ロングスカートか、桜のイメージにあわせて淡いピンクのワンピースか。

結局淡いピンクのワンピースにしたんだよね。

「ごめん、お待たせ!待ったよね?」

「…………みゆちゃん、?」

驚いた顔をして彼は名前を呼んだ。小さく、掠れた声で。

私の名前はみさきだった。
聞き間違いかと思いたかったけど、みゆちゃん、の声が耳にこびりついていた。
びっくりして声がでなかった。
誰なのか分からなかった。
大学の友達にはみゆという名前も、みゆが入る名前の子は居なかったから。

「……あっ、ごめん。昔の友達にすごく似てた。可愛いね。」

そうやって微笑む彼の目の奥は私のピンクのロングスカートしか映ってなかった。可愛いって私に向けたものとは思えなかった。

だけどそれは、私が遅刻して怒ってるのかもしれない、と思った。幼なじみなんてこの時は知らなかった。
後からこのミサンガは幼なじみから貰ったんだって言った時の表情がこの日を思い出させた。
あの時の可愛いは、幼なじみのみゆちゃんに言ってたんだね。

最近、髪の毛をボブにした。ボブが好きって言ってたから。
すっごく似合ってる。可愛いって言って貰えた。

あの時、誰を見てたの?

私の頭を撫で、髪の毛を触った貴方の手は私を触ってなかったよね?

みゆちゃん、を触ってた。

好きだから、彼のことが分かる。
好きなのに、彼のことがわかって悲しくなる

もう悲しくて疲れた。


「別れよう。太智くん、私のこと好きじゃないでしょ」