バックの入り口の前に着いた時、中から店長の声が聞こえてきた。


「…ジュリーじゃない、ケンジだ。そうだろ?」


──ん?みんな俺の話題してるのか?


ちょうどいいやと思って、バックの扉を押そうと手を伸ばした時だった。


「ジュリーが歌う前、あそこは健児の場所だった…。うちの常連でよく煙草を買っていった…。銘柄はマルメンライトだっけか…。」


──俺…じゃないケンジ?っていうか俺の前にあの場所で歌ってた…。


俺を夢へと背中を押してくれた人を思い出した。
店長の知り合いだったんだ…。


その会話を少し聞いていると、聞きたくなかった言葉を店長が言った。



「…彼女ってあなただろ?朱美さん…。この曲は健児が彼女に宛てた物だ…。健児に何があった…?ずっと俺も気になってたんだ。」