吹雪は中々おさまらない。ミウロは、ユーたちのことが気にかかってきていた。
「ユーとはどこではぐれたんだ?」
「駅の前だよ。行ってみる?」
「そうだな。その辺にまだいるといいけど」
「ミオネと護り鳥も探さないと!」
「ああ」
二人はそうして吹雪の中、歩き出す。外に出歩いている人は一人も見当たらなかった。ひどい雪で視界がままならない。何軒か家を通り越すと、駅が見えてきた。
「エル!ここが駅、だよな?」
ミウロが振り返る。
しかし、エルはそこにはいなかった。
「おーい!エルー!ミオネー!ユー!護り鳥―!」
ミウロは、吹雪の中、叫ぶ。しかし、声は白い雪に虚しくも溶けるだけだ。どんどん雪がひどくなる。視界が悪くて、たった一歩ずつが重い。どこかの家に避難しようと、やっと見えた家のドアを叩く。
「はい、ってゲ!!」
出てきたのは、先程倒した腹巻おじさんだった。
「貴様のせいだ!あの腹巻きは、ありつづけなきゃいけなかったんだぞ!」
「どういうことだ」
ミウロは、ムッとする。あり続けたら、国がどうにかなる。亡国への一路を歩むだけだ。
「あの腹巻きだけはだ、持ち主の願いを一つだけ叶えられるんだ。それで俺はだ、願ったんだ。
この国よ、滅ぶなってな」
「だから、あの腹巻きは」
「そうだ、なくてはならないものだったんだ。でも、もう別の腹巻きたちがこの国を呪ってるからな」
「そんな・・・」
「お前がどこのどいつか知らんが、ま、せいぜいあがけばいい。だが、もう俺はいい。この国を出ていく。家も好きに使え」
「ええ・・・」
ミウロは、腹巻き男が出ていった後もしばらく呆然としていた。雪がひどく降り続ける。
「おい!」
ふいに声をかけられる。赤髪の長髪の女性が、ミウロの後ろに立っていた。
「な、なんだ?」
ミウロは振り返る。その女性は、カンカンに怒っている様子だった。
「貴様、さっき、うちのじいに信じる心がこの国を救うとか、腹巻きはもうつけない方がいいとかいうことをたらし込んだだろ!」
「そうだけど、それがなんだ!」正しいことをしたはずだ。ミウロは、そう思いつつも、嫌な予感を感じた。
「それを信じたじいの腹巻きが消えてだなあ、寝たきりになっちまったんだよ!もう死ぬかもしれねえ!どうしてくれんだ!」
「え・・・」
「あの腹巻きは、寿命を伸ばすんだ!もう余計なことはするな!」
「でも、このままだと本当に国が滅ぶって!」
「わからないだろ、そんなこと!おいらのじいを元に戻せ!」
近くに詰め寄ってきて、胸ぐらを掴まれた。大柄な女性で、ミウロの足が浮く。
「うぐ・・・」
苦しい。まさか、そんなことになっているなんて思いもよらなかった。ミウロの心が大きく揺らぐ。
腹巻きを放置して、多くの人が寿命を伸ばす代わりにこの国が滅ぶか。それとも、被害者を出しながらも腹巻きをなくして、この国が救われるか。
どちらがいいのか。そんなことを考える。
「無くなった願いを叶えるっていう腹巻きを、取り戻す・・・から」
「それならいい!必ずだからな!」
ばっと胸ぐらから手が離れる。ミウロは雪の上に座り込む。咳き込んだ。
その女性は少しだけ落ち着いて「じゃ」と背を向けて去っていった。
「どうにかしなきゃな」
エルたちがまだ見つからない。そのことを気にかけたが、ひとまず腹巻きをどうにかして元に戻さなければならない。
どうするかーーー。
ミウロが、アル神に聞けないかと考えていると、〈内なる光に心をすませ〉という言葉が降りてきた。
(内なる、光?)
目が自然と閉じる。そして見えたのは、赤と黄金色の光だった。
いつのまにかミウロはその光のある空間のなかにいた。周りは光以外、白い空間だった。
手が伸びる。
光をつかむ。
光の強さが倍化して、温かいものが身体中を巡るのを感じる。
温かい。そう思っている矢先、黒い羽を生やした坊主風のおっさんがブレイクダンスで「ヘイヘイー!」と回転しながらスキンヘッドの頭を光らせながら現れた。
「君には、この力の方が、ふさわしい。受け取れ!」
ぴかりん!
おっさんの頭が光る。すると、一陣の風が正面から吹いてくる。ミウロの額もぴかりん!と光った。
その次のことだ。
辺りが真っ黒に塗りつぶされた。
ぴかりぴかり
真っ暗闇の中、スキンヘッドのおっさんの頭と、ミウロの額だけが光っていた。
「どうだ?オレィの授けた力は」
「どういう力なんだ?」
「たこ焼き力だ!」
そうおっさんがくぐもった声で言うのと同時に、ピカー!と今度は、怪しい茶色の光を頭が放つ。みるみるうちに姿が、丸く大きくなり、あっという間に少し焦げたたこ焼きに大変身した。
「なり立てたこ焼きどうぞ!」
「いらん!」
「ならば、強制的にくれてやる!」
「いらねええええ!」
丸く焦げたように見えるたこ焼き姿のおっさんが追っかけてくる。
(神と共にあらん)
ふいに声が聞こえた。
「神と、ともに」反すうする。
立ち止まった。振り返る。たこ焼きを睨みつけた。
パアーーッ
全身に黄金の光がどこからか集まってくる。がぜん、力が湧いてくる。
「くらえ!」
ミウロは、片手を上に突き上げた。
赤色の柱が降ってきて、たこ焼きに直撃する。
「うわおおおおっ!」
たこ焼きは、みるみるうちに小さくなり、一口サイズになった。ほっかほかのたこ焼きらしく、湯気が上がっていた。
「よかった」
ミウロは、額の汗を拭った。もう額も光ってなかった。
〈腹巻きの力の良き面だけ作動させるクリスタルだ。天に掲げなさい。民の神を信じる心が高まれば高まるほど効果を発揮するだろう〉
そう誰からかの声が聞こえた。目が開いた。元の雪の中にいた。手には、その言葉の通りのクリスタルが収まっていた。
