信じる心。
それは、神を思う心、自分を思う心、人を思う心。まだわからない未来を思う心。
そんな何かを思う心でも、明るさを見つめる心が信じる心だと言えるものになるのではないだろうか。
そして、それは幸せということにも直結していると。
エルはそんなことを思案して、みんなの後ろを歩いていた。
「ここだよ!」
ミオネが、木の看板の手前で振り返った。
木の看板の先には、こじんまりした家が雪を被った畑の向こうに立っていた。
あれから、ミウロによればこの国を雪から解放するには、アル神や護り鳥の言うよう、信じる心が必要ではないか、その心をみんなが持てばいいいのではないかということだった。
だから、護り鳥の住みかで待つのもいいが、ユーがせっかちなゆえ、村に出向く形になったのだった。
家が立ち並ぶ所まで歩いて行くと、十歳ほどのエルと同じくらいの少年が不意に横から飛び出してきて、ミウロに飛びついた。
「あの!聞いてほしいことがあるんです!」
「それで、雪の国になってから急に作物が取れなくなって、神様を信じられなくなっている・・・と」
エルが、先ほど少年から聞いた話をまとめてみる。少年は、こくりと頷いて、部屋の明かりを、吊り下げ式の紐を引っ張り、もう一段明るくする。
少年の部屋の広い窓から、外を眺めると、雪がまた降ってきていた。
「僕たちは、この世界を創った偉大な神様の一部だ。
だからきっと大丈夫だぞ。
今は試練の期間だと思うし、心を強くするための大事な時だと思う」
ミウロが言う。
「信じるの、怖いけど、俺も神の一部なら、何が起きてもなんとかなりますよね!」
少年が明るく言う。ミウロは「そうだぞ!」と笑顔を向けた。そんな時だ。
「俺の息子に希望を持たせるな!!」
おぼんに乗せたお茶を持ってきた少年の父親が怒鳴って部屋に入ってきた。みんなその言動に驚く。エルは、恐怖を感じ、ミウロは憤りを感じた。
「お前、何者だ!」
ミウロがたち上がる。その少年の父親は、「ふん!」と鼻を鳴らした。お茶の入ったおぼんを床に置く。
「どうやらあの腹巻きを恐れるものが増えているとはいうが、これを見ろ!」
その絵は、水晶のように透明な塊を食べようとして、目が死んでいる男が描かれていた。その男の頭の上には「これは食べ物ではありません」と書かれていた。
「その水晶、もしかして」
ミオネが勘付く。
「そうだ、あの腹巻きだ!」
少年の父親は、紙を両手で持ち直す。頭を低くして、紙をよくミオネたちに見えるようにした。
「実は、量産してまして!食べ物だと勘違いする人続出で!!それでバグ撃に広まってるんだああああああ!」
「いや、やめましょう!そもそも量産なんか!」
「すごく分かりにくい腹巻きですね?水晶にしか見えないし」エルが口を挟む。
『あのぅ、ですねぇ』護り鳥が強かな怒りの波動を出す。
『すっかり忘れてましたが、その腹巻きだったと思うんですけど!!おらたちの国をこんなにしたのは!!』
「え」
少年は、唖然とする。
『どのくらいの人がもっとんじゃい!』
「そうですね・・・。ざっと百人は越したかと・・・」とても言いづらそうに少年の父親――テイルムが言う。
「ケジも売ったよな」
「うん・・・」
少年、ケジは元気なく答えた。未だ護り鳥の言ったことからのショックが抜けない。
『「希望を持たない代わりに、国が気候変動で滅ぶ道を歩む代わりに、長寿が得られる」だとかだったと思うけど、持っている人が次々と不幸になっていると思うんだが』
「けど・・・」ケジは何か言いたげで、黙り込む。
『君!だからと言って、国が滅んでは嫌だろう!
希望を持ってはいけないことも苦しいんじゃないか?』
「もう放っておいてくれないか?かつてのラウー国ではないんだ。俺たちの国は」
護り鳥の言い分にテイルムがしかめっ面をする。場が静まりかえる。光の国と以前言われていたことがあったこの国。その代名詞はもう過去のことだ。
「長生きできるだけでも十分だ。俺たちは、希望を持ってはいけないがな」
「けど、この国が雪に覆われ続けて、苦しい目に遭う人たちばかりじゃないのか?」ミウロが声を荒げた。
「絶望しかしてはいけないなんてねー。それでも長寿ならいいんじゃいかしら?」ユーが続いて言う。
「ねえ、父ちゃん、もう俺嫌だ。改まって思うけど、こういうのってよくないよ。絶望するような出来事ばかり起こるもん」
ケジが思い切って話した。テイルムは、ムッとする。
「俺はそもそもこの国も俺自身も何もかも嫌いなんだ。全てどうだっていいんだよ」
「そうか・・・」
どういう判断をすればケジの父ちゃんも周りも幸せになるんだろう。そうミウロは、悔しそうだ。
「神は、そんなケジの父ちゃんも愛してくれてるよ!」エルがテイルムを励ます。
「ああ、ありがとう。そうだといい」
そう言ってテイルムは、部屋を出て行った。
「信じる心を持つことが、この国を雪から解放する唯一の手段なんですよ!」
エルが叫ぶかたわら、ユーが通りがかりの人にビラを配る。
ミウロと護り鳥とミオネは、それぞれ家に訪問して、話を住民の人としていた。
ミウロは、三件目を回ったあたりで、視線を感じて「そこにいるのは誰だ?」と警戒する。
「お前ら、許さん!」
建物の影から出てきたのは、クリスタルのようにも見える腹巻を堂々と身につけている頭に一本しか毛が生えていないおじさんだった。
「ミウロ!」
エルが駆けつけた。ユーも一緒だ。
「俺がせっかくこの国の奴らを長生きさせてやってるのに!」
怒りのオーラを出しながら、おじさんは腹巻をクリスタルでできた鋭い牙のような武器に変化させると、「覚悟!」とミウロに向かって走ってくる。
「炎の剣!」
とっさに叫ぶ。
手元に炎が現れた。ミウロがその炎を手で掴むと炎から柄が出てきて、ミウロの手にはまる。
『行きますよぅー♩』
ミウロは剣で牙を受け止める。甲高い音が鳴った。
「アル神よ、オイラたちに力を!」
エルの声がした。と、思うと男の牙が砕かれた。
アル神の力だ。
「ありがとう!エル!アル神!」
ミウロは、剣を思いっきり振り下ろした。炎は男を直撃する。
「あっちいーーー!!」
男は慌てふためいて逃げていく。はらまきもない弱腰状態で、もう戦う意志は男にはなかった。
怒りのオーラも消え、走り去っていく後ろ姿から裂け目が開いて、「きゃああああ!」と、小さな腹巻きを巻いたおじさんが女性らしい悲鳴と共に、腕を鳥のようにばたつかせて、ふよふよと上空へ上がっていくのが見えた。
「よ、よかった・・・」
まだ心臓がドキドキする。ミウロは、地面に座り込む。剣はいつの間にか消えていた。また、呼び出せば出て来るのかもしれない。エルの祈りの力とアル神がいなければ、とも考えた。
「怖かったよ!無事でよかった、ミウロ!」
エルが飛びついてくる。
「ありがとう、エルのおかげだ」
ミウロは微笑む。そして、立ち上がる。
先程までいなかった雪が急に強くなり始めた。あっという間に吹雪になる。食物屋に入って、雪を凌ぐ。
「雪だあああ!大雪だあああ!」
食物屋の店長が、窓の外を見て、騒ぐ。頭を手で抱えていた。
「ああ、ひどい雪ですもんね」エルが頷く。
「僕の視界を虜にする雪であるな。さて、ちとナンパでもするか」
そんな店長とミウロたちをよそに雪はどんどん降り積っていくのだった。
