あの子が消えた。
私の隣から、このクラスから、学校から。
――町内から、日本から、世界から。
人々、の記憶の中から。
あの子が消えた。
あの子が消えたことを、私だけが知っていた。
「誰の話?」「そんな子いた?」「誰かと勘違いしてない?」
戸惑う私に返ってくるありきたりな「知らない人の話をされた」ときのリアクション。
盛大なドッキリか、突然いじめでも始まったのかと戦々恐々としながら向かったあの子の家でも似たような反応。いや、もっと酷かった。
だってあの家にあの子が居ないなら、私はあの家と接点がない。突然知らない学生が訪ねてきて居もしない娘の話をされて、あの子の両親は怪訝な表情に恐怖を滲ませていた。
(そんな顔しないでよ。したいのは私の方なのに)
誰もあの子を知らない事実に恐怖を感じて、私は適当なビルの非常階段付近に逃げ込んだ。
携帯を取り出しアプリで写真を確認する。ラインはアカウントからして存在せず、あの子とのやりとりも消えてしまっていた。
「…やっぱりいない」
見間違いじゃなくて、写真にもあの子は写っていない。
不自然に一人分空白のある、私だけの写真。画面の半分に寄った自撮りの数々。そこに居たはずのあの子がどこにも居ない。
技術が進化した昨今。トリミング機能が充実したとしてもこれだけの数を持ち主の私に気付かれず、あの子の部分だけ消せるわけがない。
原理はわからない。
確かなのは、あの子が消えたという事実だけ。
(それともあの子の存在は私の妄想で、頭がおかしいのは私の方なの?)
今日一日、あの子を探して沢山の人に声を掛け、そのたび怪訝な目を向けられた。自分の記憶なのに、自分自身を信じられなくなってくる。
だって誰の記憶にも、どの記録にも、あの子の存在が残っていない。
あの子は居たのに。
昨日まで隣に居たのに。
今日だって教室で、おはようと挨拶する筈だったのに。
「どこにいるの…」
「誰かお探しで?」
自分しかいないと思っていたのに背後から声を掛けられて、私は声も出せず飛び上がった。
慌てて振り返った先。非常階段の踊り場に、古くさい探偵のような格好をした男が腰掛けていた。



