代わりに、といっていいのか海の香りがする。強い匂いじゃないからそこまで気にならないけど、ここら辺に住んでいると潮と一緒に育つから……なのかもしれない。
だけどお祖父ちゃんやお祖母ちゃんからこんな香りがしたことないんだよなぁ……若いときだけなのかな。
「着いたよ」
「ここが……」
赤茶けて、歪んで、穴だらけになった金網の向こう。
灰色の、電信柱みたいな煙突が連なる工場が見えた。
「こんなとこあったんだ……」
圧倒されている私に構わず、矢島くんは金網をすいすいとよじ登ってあっという間に向こう側に行ってしまった。
「行けそう?」
「行ける、ちょっと待ってて」
えーと、矢島くんは確かこの穴に足かけて……あーもうなんでサンダルなんかはいてきちゃったの!?
えっちらおっちらしながら金網を登り、登りきったところでまたいでひと息ついた。
「これに足かけて」



