矢島くんは私の手をひいて浜辺へと戻ったあと、つないだままだった手をそっとほどいた。
「もう大丈夫」
静かな声が耳から全身にしみて、未練がましく彼の手を目で追っていた私は視線をすべらせた。手から腕、肩、首筋から顔へ。
矢島くんは怒っていないし、悲しんでもいなかった。ただかすかにほほ笑んで私を見ていた。
「呼ばれても、秋山さんはもう行かない」
そう言いきられて、私はハッとした。
「呼ばれたの……? なにに……?」
「わかってるはずだよ」
私が、私を“呼んだ”なにかを……わかってる?
心当たりはちっともなくて、唇をかみながら首を横にふった。
「……わからない、なにも」
「“なにも”見えなかった?」
無意識に喉が上下した。矢島くんはどこまで知ってるんだろう。
「ここは……この海はね、寂しがりの人を連れていくんだ」
彼が海へと顔を向ける。私も同じように海を見た。
さっきまでの光景が嘘のように、穏やかな海原が広がっていた。



