肩をつかまれて、潮の香りが脳を突いた。
目の前には澄みきった空と深い海がどこまでも広がっている。
「……戻ろう」
矢島くんの抑揚のない声が耳に滑りこんだ。
「違う……こんなはずじゃなかった」
「うん」
「こんなこと、前にはなかった」
「そっか」
腰から下が重たい。ジーンズが海水を吸ったからだ。
「……ごめん、今日は」
「いいよ」
ささやきに身体をぎこちなく動かして、浜辺のほうを向いた。まっさら……とは言えない、流木やゴミの固まりが散らばった砂浜にホッとする。
矢島くんが当然のように私の手を取って歩きだした。ひんやりした感触に、二人してどれだけ海の中にいたのだろうと背筋が冷えた。
「ありがとう」
「ううん」
彼がいなかったらどうなっていたか。
お礼を真っ先に言うべきだったのに。なにしてんだろ。
なんか今日は本当にダメだ。



