え……?
なにを言われたのか一瞬わからなくなって、私はただ口を半開きにするしかできなかった。
「三十年前に布師ヶ浜で震災があったのは知っているね?」
「はい……」
矢島さんの問いかけにも、なんとか返すのが精いっぱいだ。
「ここの被害も凄まじかった……ここで暮らしていて助かった人は、ほとんどが沖白に移住してしまってね。民宿を再開してまでここにいるのは〈秋風屋〉さんぐらいかな」
「そう、なんですね……」
「あの日、お二人は久利畳山神社に逃げようとしていたんだけど、女将さんのほうが怪我をしていてね。オーナーは抱えて走ろうとしていたんだけどとても難しくて……」
「……どうしたんですか?」
「女将さんは自分を置いて逃げるよう言いだしたそうだ」
……初めて聞いた、そんな話。
二人ともあの日のことはあまり思いだしたくないだろうと話題にしなかった。
だけど、そんな……そんな自分の命をあきらめるようなことをお祖母ちゃんが……。



